【試乗インプレ】これが軽?小型車の基準すら塗り替え得る乗り心地 ホンダ・N-BOX(前編)

2017.11.5 13:15

 今回は、9月に発売されたばかりの新型軽自動車、ホンダ・N-BOXを取り上げる。大人気だった先代モデル譲りのトールボーイ。スペース効率がいいのは一目瞭然だが、乗ってみて驚いたのは格上の小型車がかすむほどの走行中の快適さだった。(文・写真 小島純一/産経ニュース)

 無敵のトップセラー

 先代N-BOXは日本で一番売れ続けていた軽自動車だったが、今回試乗した新型が発売されるや、もともと販売台数1位だったが2位以下を大きく引き離した。

 全高が1.7メートルを超えるスーパーハイト系、ターボと自然吸気の2種類のエンジンにユニセックスなノーマルとマッシブなカスタムという2通りのボディーデザインで計4つのバリエーションは先代を踏襲。ボディーデザインは大きくは変わっていない。新旧並べられても多分私には区別がつかないだろう。

 むしろ新型の自然吸気iVTECエンジンの採用や、衝突防止システムである「ホンダセンシング」の全車標準装備など、先代のコンセプトを保ったまま中身を進化させたモデルチェンジと言える。

 前編ではその走りに、次週の後編ではデザインと使い勝手にフォーカスする。さっそく走行性能から見ていこう。

 「軽としては」の前提不要

 今回試乗したのは、前輪駆動で自然吸気エンジン仕様のカスタム。出発地点は東京・青山のホンダ本社の地下駐車場。車幅こそ狭いものの、自分の身長より背の高いそのボディーを間近にすると「うわ!デカっ」と率直に感じる。

 メッキ加工された大きめのドアノブを握り、スマートエントリーで開錠、乗り込んでドアを閉めるとボフッと重い音がする。背が高い分ドアの鉄板の面積が大きいせいかドアにも重みがある。と同時に、ドアを閉めた瞬間に感じた鼓膜への微かな圧力から、密閉性の高さも予感させる。先代から約80キロ軽量化されているが、第一印象は重厚さだった。

 エンジンをかけ、駐車場からカーブしたスロープを登って渋滞する夕方の都心を走り出す。外苑東通りから四谷三丁目を右折して新宿通り、半蔵門を左折、英国大使館から千鳥ヶ淵を抜けて大手町へ。

 最初に気づくのは車内の静かさだ。信号待ちでアイドリングストップすると、遮音効果でまるで大通りに面したガラス張りのカフェの中にいるよう。走っていても、街路の流れに乗った50~60キロまでの速度であれば、エンジン音、ロードノイズ、車外の音のいずれもがきれいに遮断されていて、カーラジオの音量が小さくても声がよく聞き取れる。遮音材が効果的に配置されているのはもちろん、高いボディー剛性によって、駐車場で予感していた走行中の密閉性が保たれていることがわかる。

 アイドリングストップせずに低回転のまま停車している時であっても、エンジン音は微かにしか聞こえてこず、ハンドルやフロア越しに伝わるエンジンからの振動も皆無。静粛性は2クラス上の1500ccクラスに近いレベルに達しており、もはや「軽としては」という前提は不要だ。

 タクシーにしてもいい乗り心地

 次に感心したのは乗り心地。極めてソフトで私が担当した試乗車の中ではルノー・トゥインゴにもっとも近い。そう、フランス車的な柔らかさがあるのだ。

 ソフトだけれどフワフワ一辺倒ではなく、接地感は十分にあり、車線変更や交差点での旋回時にも安定が損なわれない。それでいて、荒れた路面やマンホールのふたを乗り越えた際の振動はすべて角を丸めていなしていく。わざとマンホールのふたを狙って走ってみたりしたが、そのしなやかな印象は揺るがなかった。

 モデルチェンジにあたって、足回りの改良に力が入れられていたことを感じさせる仕上がりで、誰かを乗せて、「何コレ!乗り心地いいねぇ」と驚かせてみたくなる。室内(特に後席)も広いし、このクルマのタクシーがあったら是非乗ってみたい、なんて思ったりもした。

 ボディー軽いのに重厚感あり

 発進時の加速は、わずか2000回転までで最大トルクに近い60N・mを発揮する新しいiVTECエンジンの特性のおかげで、市街地走行の流れに追従するのに何の不足も感じない。流れをリードするほどの速さはもちろんないけれど、この静かで穏やかな乗り心地を味わってしまうと、「ゆったり流すのが正解」と思えてくる。

 変速装置はCVTだから、回転数上昇に伴うエンジン音の高まりと加速感がシンクロしない独特の違和感は当然ある。しかしながら、高まったエンジン音に不快な響きがなく不思議と許せてしまうのは、やはりエンジン屋たるホンダの面目躍如と言ったところか。

 先代より軽量化しているにもかかわらず、静粛性と同様にむしろ2クラスくらい上のクルマを転がしているような、いい意味での重厚感があるのも高ポイント。2000cc以上のクルマのユーザーが、セカンドカーとして乗っても十分満足できそうな「乗り味」と呼べる走りの質感が備わっている。

 ブレーキは要改善

 ここまでのフィーリングは1000ccクラスにまで評価基準を上げても満点に近いが、気になったのはブレーキのタッチ。踏み始めの効きが弱く、中ほどから強く効いてくる。

 乗り始めのころは、予想より効きが弱かったために途中から少し焦って踏み込んでカックンブレーキになる、という場面が何度かあった。ある程度慣れで克服できるとは言え、踏み込み度合いに応じて自然に効きが強まるよう改善を望みたい。

 ハンドルを切った時の感触は指先で回せそうなほどに軽く、ハンドル越しのロードインフォメーションは決して多くない。これは走行距離に対して駐車する頻度の高い街乗りを重視したファミリーカーという性格を考慮したチューニングだろうし、シート越しに伝わる接地感に不足はないから、欠点というほどでもない。

 道中、一息入れようとコンビニの駐車場に入る。車庫入れハッピーな軽だから、テキトーな入り方をしてちょっと斜めになってしまっても、枠から変にはみ出すようなこともない。ガラス面積が大きく下端が低いおかげで視界は良好。死角をカバーするミラーやカメラも先代譲りで充実しており、子供の巻き込み事故などが気がかりなファミリーユーザーでも安心感が高い。

 高速でも印象変わらず 追い越し加速は…

 2日目は5時起きして日帰りツーリングに繰り出す。今回の行先は当連載お初の埼玉県。34カ所の札所を擁する霊場、かつ日本の地質学発祥の地であり、高度成長期に都心の建設ラッシュを支えたセメントの産地としても知られる(ブラタモリの受け売りです)秩父に向かう。練馬インターから関越道へ。まだ朝霧の残る県南エリアの走行車線を80~100キロで巡行。

 100キロ巡行時のエンジン回転数は3000あたり。一般道同様、エンジンルームからのノイズ、ロードノイズ、風切り音は低く抑えられ、同乗者との会話も普通の音量で問題ない程度に静粛性は保たれる。

 直進安定性も意外に良く、一般道で感じた重厚感そのままに安定した走りっぷり。

 で、肝心の追い越し加速だが、こちらはさすがに自然吸気エンジンの軽らしい非力さが表れる。100キロ巡行時の3000回転から上の高回転域ではトルクの上昇が頭打ちになるのに加え、加速が始まるのがワンテンポ遅れるCVTの空転感もあって、追い越し車線の車間距離が短い時は車線変更に躊躇する。とは言え、先行車が多少遅くてもいちいち追い越したりしない、というユーザーなら自然吸気エンジンで不足はないと思う。

 登り坂ではターボが欲しくなる

 関越道・花園ICから皆野寄居有料道路を経由して秩父市内に入る。秩父市街を見下ろし武甲山を臨む丘陵に広がった自然豊かな秩父ミューズパークで撮影を終えた後、東京への帰路は国道299号線で埼玉県・飯能を経由するルートをとった。比較的緩やかな勾配のこのワイディングロードで、登坂力と旋回性能を試す。

 まず上り坂だが、概ね高速道路での追い越し加速と同じ印象。思ったようなスピードでは登ってくれない。前後に他のクルマが走っていない制限速度内という状況で考えれば必要十分なのだが、実際の場面では前後のクルマが制限速度を少し超える速いペースで流れていることも少なくない。片側1車線で、登坂車線以外で後続車に道を譲りにくい山坂道では、もう一押しのトルクが欲しくなる。1名乗車でもこんな印象だから、坂道を走る機会の多いユーザー、なかでも日常的に多人数乗車をするユーザーはターボ仕様を選んだほうが満足できそうだ。

 長い下り坂でシフトを「L」に入れると程よくエンジンブレーキがかかる。エンジン回転数は速度に応じて3000~5000回転あたりに上がるが、前述したように高回転時のエンジン音が不快ではないから、延々続く下り坂でも精神的なストレスが少ない。

 警告音で最適な運転を示唆

 カーブを安全に曲がるため、内輪に適宜ブレーキをかけて自動で微調整するアジャイルハンドリングシステムを搭載。下り坂のカーブに速めのペースで突っ込んでも破綻なく曲がっていく。柔らかな仕立てのサスペンションにもかかわらず、ロールも抑えられている。前後両方に装備(四駆仕様は前のみ)されたスタビライザーは伊達ではない。

 面白いのはアジャイルハンドリングシステムが作動しそうなタイミングで先に警告音が鳴るところ。正直言うとコレ、最初はピーピーと煩わしく感じたのだが、そのうちこの警告音が鳴らないような運転をしている自分に気がついた。十分に減速してからカーブに入るという最適な運転をクルマに教えてもらった格好だ。エコ走行をサジェストする機能を搭載したクルマが増えているが、安全運転に関するこうしたサジェストも、実際の運転を通して優良ドライバーを育成する意義ある試みかもしれない。

 ライバル引き離すクルコンという贅沢

 狭山日高インターから圏央道に入り、関越道を経由して東京・青山を目指す。さぁ、あとはもうクルマを返すだけ、と思ったが、試していない機能がもう一つあった。ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)である。

 ACCは後編で詳述する衝突防止システムであるホンダセンシングの一機能。ホンダセンシングの全10機能のうち、ACCはカタログでの紹介順6番目と脇役的な位置づけであまり目立たない。ACC自体は1980年代からある技術で特段新しくもないのだが、こと軽に限っては、かつてダイハツ・ムーヴがオプションで用意していたことがある程度で、非常に珍しい装備。現行国産車の搭載状況を見てみると、メーカーによって搭載車種の数(比率)にかなりばらつきがある(※添付の表参照)。

 2008年、前身となった技術「ADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)」を進化させたステレオカメラによる独自技術「アイサイト」で先行したスバル、2015年からホンダセンシング搭載車種を着実に増やしていったホンダの2社をマツダが追う展開。意外にもトヨタや、広告で「自動運転」を声高にアピールしている日産は遅れ気味、スズキ、三菱はようやくついていっている状況で、ダイハツに至っては現状ゼロ。

 実は登録車であっても搭載車種が限られるなか、N-BOXの全車標準装備は画期的と言ってもいい。

 高級車気分でらくちん巡行 しかも運転上手

 ハンドルの右側スポークに装備されたボタンで、ACCをオンに。速度セットボタンで一旦現在速度に固定した後、上下調節ボタンで時速100キロにセットし直す。すると、もう本当に楽ちん。前車がスピードを落とせば、任意に設定した車間距離を保つように自動で減速、前車が車線変更して前方が空けば設定速度まで自動で加速してくれる。長距離移動では疲労感が全然違ってくるはずだし、高級車を運転しているようで気分もアガる。

 しかもこのクルコン、加速時のアクセルワークがうまい。CVTが無駄に回転数を上げず、エンジンのおいしいところを使って高燃費を維持しつつ、もたつきなく加速していくではないか。同じく自動減速の制御も見事で、まったく危なげなく思った通りにスムースにブレーキをかけてくれる。逆に、クルコンの癖をまねることでCVTの違和感を抑えながら運転できるようになるかもしれない、なんて思わされたほどだ。

 ディーラー試乗で試しにくい隠れた美点

 残念ながら、N-BOXのACCは時速30キロ以上でしか作動しないため、渋滞時や一般道では使いづらいのだが、そもそも非搭載の軽、小型車に対しては大きなアドバンテージである。

 長距離ツーリングの機会が多いユーザーにとっては、これだけで大きな購入動機になるし、長距離運転の負荷が軽減されることで余暇の行動範囲が広がり、ユーザーのライフスタイルに影響を与える可能性すら秘めていると思う。ディーラーでの試乗ではACCを試すことは難しいだろうが、走りに関するこのクルマの隠れた美点である。

ACC機能実現に必要かつ高価な部品であるミリ波レーダーを標準で装備した判断には、自動運転時代を見据え、今後低い価格帯の軽でも自動運転化を進めていく、というホンダの戦略が透けて見える。

 「軽」の水準超え、質を語れる走り

 総じて新型の走りは、「軽」というカテゴリーから想像できるレベルを大きく超えているのみならず、質を語れる領域に達している。特に、静粛性と足回りの仕上がりは格上の1~1.3リッタークラスの小型車、たとえば私が試乗を担当したダイハツ・トールよりも明らかに良かった。しかも、130万円台のベースグレードにさえもれなくACC装備、という贅沢なおまけ付き。走りだけ見ても、軽自動車を含めたスモールカーの基準をも塗り替え得る中身を備えている。この出来栄えに競合他社も戦々恐々、いや逆に奮起しているかもしれないが、ホンダ自身の格上小型車をも食ってしまうのではないか、と他人事ながら心配になるほどだ。

 次週・後編はスーパーハイト系ならではの多彩なシートアレンジをはじめとする内外装のインプレッションを、写真増量でお届けする。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)

■基本スペック

ホンダ・N-BOX カスタム

全長/全幅/全高(m) 3.395/1.475/1.79

ホイールベース 2.52m

車両重量 930kg

乗車定員 4名

エンジン 直列3気筒

総排気量 0.658L

変速装置 CVT

駆動方式 前輪駆動

燃料タンク容量 27L

最高出力 43kW(58馬力)/7,300rpm

最大トルク 65N・m(6.6kgf・m)/4,800rpm

JC08モード燃費 27km/L

車両本体価格 175.284万円

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