《外貨の活用》(2)〈円貨保有のリスク〉後悔しない資産運用のために

投資講座

 「昔あるところに、ある夫婦がおりました。二人で苦労して植えた稲が冷夏で不作となり、そのうち食べ物にも不自由するようになりました。ある朝、縁側でくつろいでいると、お代官さまが年貢を取り立てにやって来ました…」

 聞き覚えがあるような昔話の一節ですが、これは将来の日本の姿とも重なります。未来話として語ると、次のような話になります。

 「20xx年、あるところに、ある夫婦がおりました。二人でせっせと働いて蓄えた資産を日本株や銀行預金で運用していましたが、手持ちの資産はなかなか増えず、そのうち生活にも不自由するようになりました。ある朝、新聞を手に取ると、年金の支給年齢引き上げの記事が一面に大きく掲載されていました…」

 未来のご夫婦の生活苦は、デフレによる円資産の収益性の低さと、財政難による負担増によるものです。それぞれの背景について、見てみましょう。(SMBC信託銀行 田中正秀)

報われない円での資産運用

 日本では、かれこれ20年以上にわたり、デフレが続いています。デフレがなかなか終息しない背景として、消費者の低価格志向の強まりが挙げられます。モノの価格を調べるためにわざわざチラシを見比べなくても、買いたいモノの値段を手元のスマートフォンで容易に比較できます。さながら株式を売買するトレーダーのように、消費者は複数のウェブサイトで販売価格を比較して、モノを安く買うようになっています。

 安い店でモノを買う人が増えると、売上高は停滞し、企業収益を下押しします。コストを抑えるために従業員の賃金も伸び悩むため、経済は低成長となり、国内資産の収益性を押し下げます。

 その結果、日本企業の収益性は海外企業に比べると低く、2016年10~12月期の営業利益は売上高の約7%(米国企業は12%台)、ROE(株主資本に占める純利益の割合)も7%台(同13%台)にとどまっています。

 内外企業の収益性の差は、株価のチャートに明確に表れています。欧米株価が上げ下げを繰り返しつつも着実に上昇してきたのに対し、国内株価は上昇の勢いが乏しく、一定のレンジ内で方向感に欠ける推移を続けています。また、デフレ脱却に向けた日銀のマイナス金利政策の余波で、国内債券や銀行預金の利息はゼロに近い水準となっています。日本で資産運用が広がらない理由として、日本人は安全志向が高く、損失を好まないためだと言われますが、実のところリスクを取って円資産で運用しても、デフレのもとでは報われず、運用する意欲がわかないからなのかもしれません。

少子高齢化が財政をむしばむ。そのツケは国民にまわる

 日本政府の債務残高は、足元でGDP(国内総生産)の2倍を超えており、今後も拡大する見通しです。

 財政悪化の主因は、少子高齢化とそれに伴う人口減少です。国立社会保障・人口問題研究所が4月10日に発表した「日本の将来推計人口(17年推計)」によると、日本の総人口は、17年の1億2653万人から、36年後の53年には1億人を割り込む見通しです。

 今年生まれた赤ちゃんが3度目の年男・年女を迎えるまでに、東京都と埼玉県、千葉県の1都2県分に相当する人口が失われ、その分の需要も減少するということです。

 個人消費や企業収益の減少で税収が頭打ちになる一方、高齢化の進展に伴い年金支給や医療費の公的負担が重くなり、予算運営は難しくなります。政府はどのように予算をやり繰りするのでしょうか。

 まず、予算財源の確保に向けた増税が考えられます。税率引き上げや課税対象の拡大を通じて、目先の税収を確保できますが、副作用として家計や企業の可処分所得が減り、景気を悪化させる恐れがあります。

 次に、公的サービスの縮小が考えられます。例えば、年金の支給年齢引き上げや、医療費補助の縮小などです。より身近な地方自治体においては、乗客数の減った路線バスの廃止や、生徒の減った小中学校の統廃合が起こり得ます。公的サービスの縮小分は個人の負担増となり、家計を圧迫します。

 増税、サービス縮小いずれのケースでも、低収益の円資産運用だけでは、生活水準を維持することが難しくなります。

外貨運用は資産を育てるための処方箋

 来たる将来の負担増に備えて、私たちはどのように対応すれば良いのでしょうか。ひとつの解決法として、資産の一部を外貨で運用することが考えられます。冷夏で米が不作ならば、温暖な地域に住む親戚に小麦を育ててもらうという発想です。

 外貨での資産運用は、保有資産を増やすための一つの処方箋です。主な効能として、(1)期待収益率が高い、(2)投資できるファンドの幅が広がる、(3)円資産との分散効果が期待できる、があります。一方、為替レートが円高に進むと、円建てで損失が出る可能性があるという副作用もあります。外貨を現金で持つと、収益率は為替レートの変動のみとなるため、円高が即、円貨での損失につながります。しかし、外貨を株式や債券などに投資することで、資産の運用益が為替による損失を一定程度埋めることができます。円から外貨に移すだけではなく、外貨に換えた資金を、収益が見込める資産で運用することが大切です。

 国内のデフレが長引く中、日本企業の多くは、成長が見込める海外に販売・生産拠点を広げ、日本企業の海外売上高比率は売上高全体の6割近くに達しました。低収益にあえぐ家計の資産運用もグローバル化が進んで良さそうなものですが、個人金融資産に占める外貨資産の割合はわずか3%に留まっています。

 難しそう、あるいはリスクが高そう。だから、外貨を敬遠するという方もいるでしょう。私は縁あって10年以上フランス車に乗っていますが、フランス車やイタリア車など、いわゆるラテン系のクルマは、日本車に比べて壊れやすい、整備費が高いといったイメージを持たれがちです。しかし、日本車のディーラーを通じて買えば、整備や保証は日本車並みのサービスを受けられるため、安心して乗ることができます。外貨資産の運用も同じです。円高になって損をしたくない、外貨での運用は難しそうで敷居が高いという先入観にとらわれずに、外貨に詳しいアドバイザー、つまり「外貨のプロ」がいる銀行で相談すれば、きっと良い投資アイデアにつながります。

 フランス車の美点は、長距離でも疲れにくいシートと、路面の段差をやんわりといなす、しっとりとした足回りですが、短時間の試乗ではその良さになかなか気付けません。外貨での資産運用も、長期間じっくりと腰を据えてはじめて、その効能が分かるのだと思います。次回以降、外貨の世界について、様々な視点から紹介いたします。

(※投資講座は随時更新。次回も「外貨の活用」をテーマに掲載します)

【プロフィル】田中正秀(たなか・まさひで)

SMBC信託銀行プロダクト統括部 ポートフォリオ・ソリューション室
シニア・ポートフォリオ・アナリスト
一橋大学法学部卒業。みずほ信託銀行で、エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネー ジャー、商品企画、運用パフォーマ ンス評価・リスク管理など、年金資産運用にかかわる幅広い業務に従事。2016年8月より現職。日本証券アナリスト協会検定会員、不動産鑑定士補。

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