《短観点検》日本企業の「実力」は? 着実に回復…リスクは海外

ニュース解説
大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミスト

 市場関係者が注目する経済指標の一つが、日銀が発表する企業短期経済観測調査(短観)。3月の日銀短観は大企業製造業の景況感が2四半期連続で改善した。ただ、先行きは米中など海外リスクが影を落とす。日本経済の今の「実力」について、大和総研の熊谷亮丸チーフエコノミストに点検してもらった。

 --企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業で前回の昨年12月調査から2ポイント上昇した

 「日本経済は循環的に回復局面にある。背景としては、まず世界経済が結構戻ってきた。1月にダボス会議に行ったが、ほとんどの世界のトップリーダーがその認識で一致していた。加えて、(物価変動の影響を除いた)実質雇用者報酬は足元でみれば前年比で2%以上伸びている。つまり国民の懐に入るお金の総額でみれば底入れしてきた。あと、ひところ100ドルを超えていた原油価格もだいぶ下がってきた」

 「先行きについては海外リスクなどから慎重だ。ただ、過去の短観をみると、先行きが楽観的だと実際は悪化する傾向がある。企業が慎重にみているからこそ、結果的にはそれほど悪くならない可能性もある」

 --注目の業種は

 「改善しているところでは、自動車、電機、汎用機械など。電機は短観の調査時期は円安だったこともあるが、アジア向けの電子部品の輸出が底堅い。自動車も買い換え需要が出やすくなっている。鉄鋼、化学、非鉄金属も改善している」

 「一方、悪化しているところでは、食料品や業務用機械。前者は改善ペースが速かったことの反動と原材料価格の上昇が要因。後者は足元で若干受注環境が悪い。小売りはずっと悪化していたが、底入れの兆しが出てきた」

 --中小企業はどうか

 「全体的には中小企業のところまで恩恵は大きく及んでいない。輸出の数量が出ないと出荷ベースではなかなか潤ってこない。そういう意味ではアベノミクスはまだ道半ばだ。ただ、まずは大企業中心でも経済の体温を数年間温めて、やがて『一億総活躍』へという手順は正しい方向だ」

 --企業の資金繰りはどうか

 「短観のデータでみても、極めて緩和的な金融環境なので悪くはない。ただ、優良な投資先はあまりないというのが実態だ」

 --設備投資は

 「全体としてDIでみると今の時期としては底堅い状況になっている。大企業にも過剰が生じている状況ではない。汎用機械や生産用機械では合理化・省力化投資が中心だが、緩やかに回復基調にある」

 --先行きの海外リスクについて具体的に

 「とくに米国だ。トランプ大統領の政策がどうなるかということで、やっぱり慎重な見方がある。今まではインフラ投資など短期的な景気刺激策や米国への資金環流策が円安・株高の好材料だったが、これから円高・株安としての悪材料、双子の赤字やドル安カード、保護貿易主義などが徐々に出てくる可能性がある。米国は中長期的には悲観論が出てくると思う」

 「次に中国。金融面での過剰が約1100兆円、設備ストックの過剰が740兆円程度ある。計算上は財政出動余地が600~800兆円あるが、1、2年はカンフル剤で景気を持たせても、早ければむこう3~5年でバブル崩壊がありうる。北朝鮮も有事となれば消去法で経常黒字国の通貨として円が買われやすい。英国の欧州連合(EU)離脱の悪影響も含め、慎重に見極める必要があるが、メーンシナリオとしては緩やかに回復していくだろう」

 --投資家は短観をみる場合に何に注意すべきか

 「市場予想との差をあまり気にするより、いくつかの主要なチェックポイントを丹念にみる。今でいえば、リスクを見極める上で海外の製商品需給判断DI(需要超過-供給超過)は重要だろう。あとは総合的に判断していくのが大事だ」

 《取材後記》マクロ分析やアベノミクスの検証について定評のある熊谷さん。短観を踏まえて日本経済の現状について話をうかがったが、ついつい話題は海外に向かうのが印象的だった。それだけ市場関係者がトランプ政権の行方や東アジア情勢に神経質になっているということなのだろう。(SankeiBiz 柿内公輔)