《株式の魅力》(5)〈今後の市場見通し〉山谷乗り越え年末に向け上昇へ

投資講座

 株式投資は、当たり外れに賭けるものではなく、世の中の動きや変化に乗って業績を上げられる企業を見極め、時間を武器に短期的な山谷を乗り越えれば、長期的に資産形成に役立てていただける魅力のあるものです、とご説明してきました。ただし、株式市場は日々様々な出来事に影響されているのも事実です。今回の連載の最終回に当たり、現状の株式市場を取りまく環境を踏まえながら、2017年末、そして今後の日本の株価動向の考え方を整理します。(野村証券 若生寿一)

株価見通しは「企業の利益が伸びるか」と「割安感があるか」の掛け算

 株価=EPS(一株当たり税引き後利益)×PER(株価収益率)、つまり企業業績と期待感(市場心理)の掛け算、が基本の考え方です。これは言い換えれば、「日本企業の利益が伸びそうか」と「株価に割安感があって上昇余地がありそうか」の掛け算になります。それぞれに分けて考えてみます。

 現状、米国経済は堅調な雇用と消費の好循環を支えに景気回復が続き、失業率がこれ以上下がるとインフレになりかねない、完全雇用状態に近いと言われています。ですから米FRB(連邦準備制度理事会)は金融緩和政策の修正を続ける方針です。また、中国経済も中期的な成長率低下が続く中、インフラ投資などの景気下支え策が行われ、社会不安を招くような景気悪化は避けられています。これらを踏まえて日本経済も、輸出改善に加えて人手不足対応などの設備投資の押し上げで景気回復が続く見通しです。景気回復が続けば、世界全体での日本企業の売り上げは増えるでしょう。

 一方、実際には世界的にインフレ率が加速しないため、結果的にFRBの利上げが緩やかにしか進まないという見方が広がり、円安ドル高の動きが明確になりません。とはいえ、110円/ドル程度の水準であれば平均的な日本の輸出企業は採算が取れるため利益は伸びると見込まれ、主要企業合計の経常利益は今来期と最高益を更新する見通しです。

強気が広がらなくても…

 一方、現状の「割安感」を確認しておきます。13年以降の、野村証券による毎月の予想EPSを基準にした予想PERと日経平均株価を図にして比較すると、株価は大まかには13~16倍のレンジで動いています。8月14日時点の20000円割れの水準は13倍台とこのレンジの下半分に位置していますので、割安圏にあるといえます。

 このレンジができた背景として、日本の株式市場で日々の売買の約7割を占める海外投資家の影響も考えられます。運用に際して、値動きよりも企業業績を重視して売買の判断を行うタイプが多いとされる海外投資家にとって、経験則的に割安感が強まりやすくなるのが予想EPSの13倍程度で、割高感が強まりやすくなるのが16倍程度だと考えればある程度説明できるのではないでしょうか。そして、日本企業に対しての見方が大きく変わらなければ、こうしたレンジが今後も続いていくことになるでしょう。

 また、日本銀行が年間6兆円のETF(上場投資信託)買入れ枠を設定して日本株を購入していることが株式市場を歪めているとか、上場企業に対する経営監視を弱めているなどといった批判があります。

 しかし、予想PER13~16倍という日経平均のレンジは買入れ開始後も変わらず、全体として市場が歪められたとは言えません。またETFの運用会社は構成銘柄について株主総会での議案賛否状況を明らかにしなければいけないため、経営監視が行われていないとは言えません。このように考えると株価動向は海外投資家や日銀の動き次第であるといった固定観念にとらわれず、企業業績を冷静に見極める方がより重要と考えられます。

 図で先行きのレンジが右肩上がりになっていますが、これは来年度の業績回復を前提にしているためです。業績回復が続けば、やや割安圏(PER14倍程度)の状況が変わらない、つまり日本株への楽観論が広がらなくても、17年末は21000円程度になります。これが弊社の株価見通しです。もちろん、業績への楽観論が広がれば上値余地も広がります。

 今後、内外政治のニュースや安倍政権の経済政策運営の見通しの不透明感などが強まると株価は下落するかもしれません。特に足下ではアメリカと北朝鮮の関係が懸念されています。武力衝突の有無やその被害状況によって影響は異なります。ただし世界経済とりわけ米国経済の回復が腰折れせず18年にかけての企業業績の回復が続くとの見方が変わらなければ、その下落は市場心理の変動による一時的なもので、株価上昇トレンドは継続すると考えられます。一方、来期の減益予想が広がると、図の先行きレンジが右肩下がりになりますので、下落トレンドに注意すべき状況となります。

「ガバナンス改革」が投資家の利益に

 さらに先を見通す上では、日本の企業統治(ガバナンス)改革の影響が注目されます。日本の上場企業は、株主から出資された資金をより効率的に活用して、自社のROE(株主資本利益率)水準やその改善手段などの考え方を投資家に明らかにすることが求められるようになりました。そうした中、ROE改善のために稼いだ利益を企業が配当や自社株買いの形で株主に還元する流れが強まっています。主要企業の配当総額は16年度までの実績で7期連続増額となり、今来期も増額見通しです。これはマイナス金利政策が続く中では魅力的といえるでしょう。

 またROEが上昇すれば株価上昇余地が広がりやすくなることは過去の分析で明らかになっています。ROEを上げるためには株主還元だけでなく、設備投資やM&A(企業の合併・買収)など将来に向けての投資を行うことも企業の選択肢です。こうした努力の継続が株価を底上げしていくでしょう。

 劇的な景気回復や円安の追い風がなくとも、現状程度の世界の経済成長率と為替レートが続けば、主要企業の経常利益は毎年1ケタ台後半程度の増益になることが想定されます。その想定のもとで単純に試算すれば日経平均は3年ほどで25000円を上回り、株主還元が強化されればその影響が上乗せされる形で上昇トレンドが続くことも期待されます。

 今回の連載では、すぐに売買益の出そうな株をいかに見つけるか、というよりも、お読みいただいた皆様が、それぞれの長期的な資産形成をどう考えるか、その中で日本株をどう位置付ければ良いのか、といったコンセプトを重視してご説明させていただきました。株式投資に対する前向きのイメージを持っていただき、資産形成にご活用なさってみてください。

(※投資講座は随時更新。次回から「投資信託」をテーマに掲載します)

【プロフィル】若生寿一(わこう・じゅいち)

野村証券 投資情報部
エクイティ・マーケット・ストラテジスト
野村総合研究所入社後、経済調査部、ロンドン現法勤務を経て、野村証券投資調査部にて日本株投資戦略の策定を行う。現在はマクロ経済分析に立脚した、日本株を中心とした資産選択などの投資戦略の策定を担当。テレビ東京「ニュースモーニングサテライト」レギュラーコメンテーターなどメディアを通じた情報発信も行う。

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