2010.3.8 00:52
【ロンドン=木村正人】金融危機で大手銀行がすべて国有化されたアイスランドで、英国やオランダの預金者を公的資金で保護する法律の是非を問う国民投票の開票が行われ、7日午前までに反対多数で否決が確実となった。英国などの反発は必至で、欧州連合(EU)加盟交渉への影響も避けられそうにない。アイスランドと欧州の関係悪化を横目に中国は、地球温暖化による北極海航路開通に備え、アイスランドに最大級の大使館を建設するなど着々と関係を強化している。
ロイター通信によると、6日行われた国民投票の開票作業は7日午前、開票率が5割を超えた段階で、反対票が9割を突破、否決の見通しとなった。求心力低下が浮き彫りになったシグルザルドッティル首相は、「投票結果は政権の進退に影響しない。英国、オランダと交渉を続ける」とコメントした。
ただ、国際通貨基金(IMF)などからの金融支援にも影響が出そうで、政治・経済の混乱が広がる懸念も浮上している。
EUは2008年10月、金融危機を受け、1口座の預金保護額を2万ユーロ(約246万円)から5万ユーロ(約615万円)に引き上げた。英国やオランダはアイスランド政府に対し、各口座の預金を5万ユーロまで保護し、5・5%の金利をつけるよう求めたが、「外国を優遇するのか」とアイスランド国民が猛反発。アイスランドが1944年に共和国に移行して初めてとなる国民投票が実施された。
アイスランドと英国は50~70年代に漁業権をめぐり対立し、両国の艦艇が砲撃や体当たりを繰り返す「タラ戦争」が勃発(ぼつぱつ)。このときは、米国と旧ソ連の中間に位置するアイスランドの地政学的要因から、安全保障への影響を懸念した米国が仲介に当たった。しかし冷戦が終わった今回、アイスランドから仲介を依頼された米国は知らんぷりを決め込んでいる。
各国とも金融危機の事後処理に追われる中、“厄介者”扱いのアイスランドに近づいているのが中国だ。
地球温暖化で2030~40年には夏の間、北極海の氷がなくなると予測されている。中国は、国内総生産(GDP)の半分の経済活動を海上輸送に依存しているが、ベーリング海峡を通って太平洋と大西洋を結ぶ北極海航路が開通すれば、上海~ドイツ・ハンブルク間が、スエズ運河経由の航路より6400キロも短縮できる。しかもマラッカ海峡やインド洋の海賊に悩まされる心配もなくなる。
北極圏は石油、天然ガス、ニッケル、金、コバルトなど海底資源も豊富だ。
こうした北極圏への中継地として中国が注目するのがアイスランドである。
中国は同国と自由貿易協定(FTA)の交渉を始めるとともに、首都レイキャビクに5~6階建てで、約30台の駐車が可能な大使館を建設した。中国の在外公館の中でも最大規模。人口約30万の小国に設ける大使館としては異例の大きさで、レイキャビクでも話題を集めている。
中国はまた、アイスランドの口利きで、北極圏の開発・環境問題を協議する政府間組織「北極評議会」に暫定オブザーバーとして参加している。アイスランドの港湾建設のため資金提供したとも伝えられる。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の報告書は、中国がハイテク技術を結集した新型砕氷船の建造を決定するなど北極圏への関心を強めているとし、中国が北極海沿岸国と同盟を結ぶ可能性を指摘する中国人専門家の声を紹介している。