どうしたら安定的な農業を実現できるかを追求する佐々木は今、新たな可能性に挑んでいる。かつて農場を危機から救った栽培契約だが、一気に減少すれば経営の安定は保てない。では、最終的に最も安定した販売先はどこか。
佐々木が行き着いた答えは、地元の消費者。例えばコンビニエンスストアと手を組み、店舗の一角を借りて農家が作物を置くという形で、地域ごとの地産地消のネットワークを作る構想を温めている。「生産者から消費者に直接作物を届ける流通革命を起こせばコストを大幅削減できる」というわけだ。
生産者と消費者を直接つなぐという夢をかなえるため、佐々木は農場の近くに私費を投じ「森の中の果樹園」(青森県弘前市)を作った。佐々木の家族が運営する同園(35ヘクタール)には果樹約20種類、約1万本が植えられ、1人1000円で果物が食べ放題。あえて宣伝をしないという方針の下でも、付近の住民らを中心に年間約2万人が訪れる。
農業近代化への取り組みを通しさまざまな辛酸をなめた佐々木。目の前に押し寄せる荒波にもひるむ様子はない。
「仮に日本がTPPに加盟し、安い輸入作物が入ってきても、日本という巨大市場の真ん中にいるわれわれが負けるわけがない。問題は消費者に価格や味など、どんなサービスを提供するかの仕組み作り。うまくいかないというのなら、それはやり方が悪いんだ」=敬称略(佐藤健二)