安倍晋三内閣の与党自民1強に対して野党はどう攻めるか。アベノミクスの先行きについて強気論とその反対論が交錯するなかで、臨時国会の論戦が始まった。安倍首相の所信表明演説に対する各党の代表質問のなかで、野党第一党の海江田万里代表の経済政策をめぐる質問と、安倍首相の答弁は鋭く対立した。
海江田氏は労働者の実質賃金が昨年7月以来、連続で前年を下回っている点をただした。安倍首相は春闘の賃上げと労働者の賃金全体の伸びを示し反論した。
経済の行方を人々の個々の生活のありようから見ていくのか、あるいは全体としての動向に注視するのか。代表選の前倒しの動きを乗り越えて、党内の有力者を新体制に取り込んだ、海江田氏の経済政策の方向性は前者にはっきりと重心を移した。海江田氏にようやく、自民党に対抗する強い意欲が表れてきたようだ。代表質問前日の9月29日の定例会見で「総理の所信表明演説は、ずさんでまるでブログのようだ」と言い切った。
経済評論家として出発した海江田氏の政治家思想を形成するのに影響を与えたのは、イタリアの思想家、アントニオ・グラムシ氏である。評論家時代のオフィスには彼の肖像が飾られていた。
グラムシ氏はイタリア共産党の設立に加わったが、10年以上にわたる獄中生活の末に1937年に亡くなった。ソ連共産党の指導に対して反対の論陣を張った。知識人の役割を重視して、大衆を教育するとともに教えられながら、政治活動を成し遂げるという考えだった。フルシチョフによるスターリン批判やハンガリー動乱などがあって、マルキシズムに失望した欧州ばかりではなく、日本の若者にも静かに浸透した。