「建設プロジェクトの鍵を握るのは発注能力だ」-。05年に発覚した耐震強度データ偽装事件の時も記事にそう書いたが、プロジェクトの責任は発注者にある。分譲マンションならデベロッパー(開発事業者)、公共工事なら国や地方自治体などの発注機関、戸建て住宅を建てる専門知識のない個人も同様だ。
建築士の資格要件や建築確認検査のチェックをいくら厳しくしたところで、発注能力が欠けていればプロジェクトは計画通りに進まず、結果的に良い成果物は得られない。日本ではゼネコンや工務店のようにプロジェクトを発注者が“丸投げ”しても引き受けてくれる業態が発達してきたため、発注能力が大きな問題にならなかっただけだ。公共工事でも予定価格(いわゆる見積もり価格)が予算をオーバーした場合でも、予定価格を削って発注する違法行為の「歩切り」を行っている地方自治体がいまだにある。
こうした発注者の丸投げ体質は、建設分野だけでなくIT分野にも蔓延(まんえん)してきた。発注者のプロジェクト管理能力不足を良いことに非効率的な多重下請けが行われ、揚げ句の果てにベネッセのような深刻な情報漏洩(ろうえい)事件が起きる。さすがに経済産業省も「丸投げ下請け」を防止するためのガイドライン策定に乗り出したが、発注者自身の発注能力を高めることも不可欠だ。