□元仏外交官チェン・ヨ・ズン氏の視点
中国主導で設立されるアジアインフラ投資銀行(AIIB)に日米両国は懸念を強める一方、英仏独などは参加を決めた。世界中で影響力を強める中国にどう向き合うか、元フランス外交官のチェン・ヨ・ズン氏の寄稿を紹介する。
◆目立つ日本の牽制
中国の軍事力増大や海洋進出を目の当たりにする東南アジア諸国連合(ASEAN)各国が中国に経済協力するか軍事対抗するかで揺れ動くなか、日本の態度が際立っている。日中雪解けの兆しが見えてきたとはいえ、安倍政権は中国の抗しがたい台頭に専ら対抗、牽制(けんせい)する方向に重きを置いているように見受けられる。その一例はAIIBへの不参加だ。
中国の軍事的脅威への警戒は当然だとしても、世界第2位と第3位の経済大国が経済面でいがみあいを続けるのは決して建設的ではない。AIIBの裏に潜む中国の壮大な世界規模の諸事業とそれに付随する巨大ビジネスチャンスを見逃してしまい、日本の国益さえ損なう恐れはないだろうか。
中国が進める世界規模事業でまず思い起こされるのは「一帯一路」の名で知られる新シルクロード構想だ。中国の関心事は、距離が長く、地政学的リスクも尽きない現行の南回りのシーレーンに代わり、ユーラシア大陸の地の利を生かし、資源豊かな中東や欧州連合(EU)と陸路でつながることに尽きる。
中国西部から中央アジアを貫き、中東に至り、さらにロシア、東欧を経由してEUに到達する道路、鉄道、パイプラインなどからなる輸送ネットワークを築けば、アジアの太平洋沿岸部と欧州の大西洋沿岸部の二大経済圏が海路より迅速にかつ安全に陸路で直結する。