「TNGA」改革は、長い目でみてトヨタに“骨太な”体質転換をもたらすと考える。ただし、その取り組みは非常に長期にわたる挑戦だ。成否は、難易度が高まる「カローラ」や「ビッツ」などの小型車への展開がうまくいくかにかかっている。結果が出るのは2018年以降。TNGAプラットフォーム導入を待つことで、新型車の切り替えペースが落ちるという副作用もある。
先進・先端技術へは、昨年のAA型種類株式で調達した5000億円もの多額な資金が積極的に投下されている。トヨタに長期的な期待値を有する投資家層を種類株で開拓し、歴史的転換点にある自動車の技術革新を担う研究開発資金に充当する戦略には確かに正当性がある。
AA型種類株式の需要の高さから、資金調達は今後も続く見通しだ。調達に見合う投資と開発を急がねばならず、トヨタは人工知能など最先端の研究開発に非常に多額の資金を投下する会社になった。
こうした次世代イノベーションのための研究開発は正義だが、それ自体が目的化することには危険もはらむ。将来的に不良資産化してしまえば本末転倒だ。
トヨタの固定費は急増している。研究開発、人件費、TNGA投資がかさみ、ここ3年で年間6兆円から現在は7兆円をはるかに超える水準に増大した。そんな長期経営の踊り場に、これまでの円安が止まり、先進国需要が失速し始めたとき、業績悪化の悪夢が再燃するリスクを認識する。
トヨタはどうやって中期的な成長を担保できるのか。それに向けた成長戦略、財務戦略を語るべき局面にあるといえるだろう。
◇
【プロフィル】中西孝樹
なかにし・たかき ナカニシ自動車産業リサーチ代表兼アナリスト 米オレゴン大卒。山一証券、JPモルガン証券などを経て、2013年にナカニシ自動車産業リサーチを設立し代表就任(現職)。著書に「トヨタ対VW」など。