だからか、ぼくは日本で生活している時、正月のおせち料理以上に和菓子を遠目に眺めていた。自分で食べたい、と思うことはなかった。目の前に出されても、食べることは少なかった。喜んで食べる人たちの気がしれなかった。
それが今、日本を離れる時に空港の売店で必ず餡子ものを買う。最中などちょうど良い。
かといってミラノに着いた日に食べるのではない。到着した晩は、ボンゴレのスパゲッティだ。我が家では毎週末、ボンゴレのスパゲッティを食べるようになってもう10年以上になる。その習慣が日本滞在中は途切れる。したがってミラノに戻る日が平日であろうと、ボンゴレのスパゲッティなのだ。
地中海料理を満喫するのが第一日目だ。
餡子ものには賞味期限がある。特に最中は皮が湿っぽくならないうちに食べたい。とすると二日目には食べ始めないといけない。二日目もイタリア料理が欲しいが、デザートだけ最中にするわけだ。
この瞬間、もう「やっぱり、最中は美味しい!」と思える。料理は和食から少々距離をもちながらも、日本では見るのもウンザリしていた和菓子にイタリアに戻った48時間以内に目を向けている。
この心境の変化には我ながら驚く。日本にいる時は、明らかに和菓子を流通させる「昭和的状況」に目を背けていたことに、こうして気づくのである。