スイスの高級時計メーカー、ヴァルカンは、米第33代大統領のハリー・トルーマン氏の時代から続く伝統に従い、次期大統領に決まったドナルド・トランプ氏にも機械式腕時計「クリケット」を贈る見通しだ。だが同社は現在、時計産業の低迷に伴い深刻な経営不振に陥っており、「大統領の腕時計」とも言われるこの時計を贈呈する伝統はトランプ氏が最後になる可能性が出てきた。
1858年創業のヴァルカンは、1947年に世界に先駆けて信頼のおける機械式のアラーム腕時計を発売した。クリケット(こおろぎ)という名前はアラームの鋭い金属音に由来したものだ。販売価格は7000フラン(約80万円)。
ヴァルカンによれば、トルーマン氏は大統領在任時にこの金色の機械式アラーム時計を購入した。以来、歴代米大統領のほとんどが同社からクリケットを贈られてきたという。
ドワイト・アイゼンハワー第34代大統領もリンドン・ジョンソン第36代大統領も、執務中にクリケットを着用している姿がよく見られた。大統領護衛官がトルーマン氏の時計が鳴らしたアラームを爆弾と勘違いすることもあったという。
同社のダニエル・ウェクスラー営業担当副社長は「大統領が受け取ることのできる贈り物の価値に関するルールはよく分かっていないが、同社の時計が戻されたことはない」と述べた。ヴァルカンの本社には歴代大統領の礼状と写真が飾られている。
ヴァルカンは80年代に一度姿を消したものの、2002年に復活を遂げ、現在は年間約3000個の時計を生産している。09年以降、同社はサウジアラビアのアル・レイエス家の傘下にある。スイスの高級時計産業全体の需要落ち込みを受け、同社は12カ所ある拠点のうち7カ所を閉鎖し、従業員の半数以上を削減している。