昼には自宅に戻り家族で食事をとり、昼寝をしてから午後に職場に戻る、という暮らしが一部の商店を除き、少なくなってきたのだ。昼食と昼寝に2時間や3時間というのは「古典的」になり、朝から晩まで出ずっぱりが増えた。
かつて粋な男は日に3枚のシャツを着るとの「伝説的習慣」があった。午前中着たシャツは昼食時に脱ぎ、昼寝を終えてシャワーを浴びて2枚目のシャツ。仕事を終えてシャワーを再び浴びて夕飯のために3枚目のシャツに着替える、というのだ。
このライフスタイルが、イタリアのファッションを世界にアピールする背景になっていた。今でも昼間のシャツと晩のシャツを替える習慣はあるが、午前と午後のシャツが違う人はそう沢山はいない。
つまり若手の起業家たちは、日に1枚のシャツのスタイルや感覚に合わせたモノが少ない、と感じている。
いや、これでは表現が正確ではない。
かつて3枚のシャツを着ていた感覚や視点を踏まえたうえでの1枚の感覚にフィットするモノが世界には少ない、と感じているのだ。これがまさに歴史や文化土壌に依存した発想である。
朝早くから夜中遅くまで1枚のシャツを着ている人たちからは出ないコンセプトの胎動を、ぼくは感じた。(安西洋之)
【プロフィル】安西洋之(あんざい ひろゆき)
上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。現在、ローカリゼーションマップのビジネス化を図っている。著書に『世界の伸びる中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』 共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのサイト(β版)とフェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih
ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解するためのアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だが、異文化の対象は海外市場に限らず国内市場も含まれる。