□経営共創基盤CEO・冨山和彦
トランプ次期大統領の誕生や欧州の右傾化の流れによるグローバリゼーションの後退、人工知能(AI)革命をはじめとする第4次産業革命における出遅れ感など、新しい年に向けて日本経済や日本企業に逆風が吹いているかのような声も多い。しかし、私は今、強い追い風が私たちに向けて吹いていると考えている。
◆加速する「L」への動き
まず、グローバリゼーションの減速とローカルな経済社会重視という「G」から「L」への風向きの転換は、日本経済への逆風にはならず、政治的には大きなアドバンテージとなりうるものだ。
ネット社会の到来と先進国以外の経済圏の成長で、物理的な意味でのグローバル化をこれ以上加速する経済的メリットは縮小している。製造業では、新興国の賃金上昇と購買力上昇で世界的に地産地消化が進んでおり、日本でも国内向け白物家電などの国内生産回帰が顕著だ。新興国との賃金格差の縮小に加え、工場の自動化が進み、今後はAIの発達等で生産・物流全体の自動化、最適化がさらに加速していく中で、遠くで作ってはるばる運んでくることは、コスト的にも、在庫管理的にも意味がない。実際、世界貿易の成長は減速基調で、最近は金額ベースでついに減少に転じている。生産労働人口の減少に拍車がかかる中、日本経済最大の課題は国内総生産(GDP)の7割を占めるローカルな非製造業領域における労働生産性の向上だが、そこでは「Lの風」はむしろ追い風である。