人にインタビューする時、動機を聞くことが多い。なぜ、それを始めたのか?と。やはり、その部分に面白いネタを見つけることが多い。
さて先週のコラムで、ヴェネツィアに近いサチーレに出かけたことを書いたが、そこでピアノメーカーのファツィオリを訪問した。
同社は世界の最高級ピアノ市場の一角に食い込み始めた1981年創業のメーカーである。工場を見学した後、創業者のパオロ・ファツィオリ氏にインタビューした時のぼくの最初の質問も、冒頭の通り、彼の起業の動機だった。
サイトなどで創業の経緯はおよそ読んでいた。子供の頃からピアノを弾いていたファツィオリ氏は、家業の家具メーカーに貢献するために機械工学の学位をとる一方、音楽院でピアノ科も卒業していた。
家具メーカーで働きながらピアニストとしても活動していたファツィオリ氏は、30代になって「世の中に自分が演奏して満足な音を出せるピアノが存在しない」という問題と、「エンジニアとピアニストという二つの知識・経験を活かすことができないか」というテーマが二つ重なり、自分でピアノを作ることを考え始める。
そして音響や材料の専門家とチームを組み、家具メーカー内に工房を設置し、ゼロからピアノの試作品を何度も作り、やっと満足のいくレベルのピアノができたのが1980年だった。翌年、ピアノメーカーを創業。2010年、ショパンコンクールの公式ピアノに採用されるに至った。その間、わずか30年だ。
しかし、ぼくの問いにファツィオリ氏の口から出てきたのは、そうした話し慣れているであろう話ではなく、「どうして今さら、そんなことを聞くのか?」という逆の質問だった。