だが、6年前に導入された切符の実名制は、ネットなど中国社会における実名制強化の動きともつながっているといえよう。国民を統治する者にとって、実名制の徹底は国民一人一人の思想と行動を把握するうえで好都合である。
同行の中国の知人にはとても世話になった。知人は、「1、2週間、毛じいちゃんの顔を見ないことも珍しくない」と話す。「毛じいちゃん」とは毛沢東のことだが、中国の紙幣には毛沢東の肖像が描かれており、現金を使う機会がほとんどないという意味だ。
切符の購入も、商店やレストランの支払い、タクシーやレンタサイクルも、現金やクレジットカードではなく、みなスマホによる電子決済だ。中国社会から急速に現金が消え、「キャッシュレス社会」が広がっている。
便利さと引き換えに失うものもあるはずだが、現金とクレジットカードに頼らざるを得ない短期旅行の外国人である私は、結局、知人に頼ることになってしまった。(敬称略)