チリの「リチウム王」政府に白旗 新合意で増産の観測

 電気自動車(EV)ブームの幕開けによりリチウムがニッチの資源から主流へと変わる中、リチウム業界の大物の1人が去ろうとしている。これは米EVメーカーのテスラにとって朗報かもしれない。

 かつてのチリの独裁者アウグスト・ピノチェトの義理の息子だったフリオ・ポンセ氏は、1990年代の早い時期からソシエダード・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリ(SQM)を牛耳ってきた。株式保有比率で優位に立つカナダの肥料メーカー、ポタシュ・コーポレーション・オブ・サスカチワンからの圧力も、複数の持ち株会社と日本の興和の協力を得てかわした。もともと圧倒的な農作物向け肥料メーカーだったSQMは、リチウム価格高騰を受けて今や世界最大の炭酸リチウム輸出企業だ。

 ただ、充電式バッテリーに使用されるリチウムの需要拡大を取り込みたいSQMにとって、主要な権利条項をめぐる3年間の激しい紛争がチャンス拡大の阻害要因となっている。株主を犠牲にして富を築き上げる違法な株式取引スキームをめぐる疑惑を抱えるポンセ氏に対し、チリ政府機関の産業開発公社(Corfo)は権利更新の条件として、支配権の放棄を執拗(しつよう)に迫った。

 そして、チリ大統領選決選投票で野党候補のセバスティアン・ピニェラ氏が勝利した翌日の18日、ポンセ氏はついに降参した。

 ポンセ氏の持ち株会社はCorfoとの交渉再開の条件として以下の4点を約束した。(1)ポンセ一族が取締役会や幹部職を独占しない、これに関連してフリオ氏の兄弟であるエウヘニオ氏が会長職から退任へ(2)独立した取締役会メンバーに賛成票を投じることに関する興和との合意を終了(3)2030年まで支配株主持ち分を取得する契約を締結しない(4)A株式を代表する独立取締役を1人以上指名-。

 Corfoとの協議では、30年期限のリース契約の終了と、米アルベマールが契約したのと同等水準へのロイヤルティー引き上げを通じて、産出制限を引き上げることが焦点になる見通し。

 SQMは炭酸リチウムの生産能力を年間4万8000トンから6万3000トンに増強しており、これは契約終了前に生産割当量に到達することを意味している。ラーレインビアルのアナリストらは、新たな合意によって割当量は倍増する可能性があるとみる。

 それはリチウム市場の逼迫(ひっぱく)による価格急騰に苦しめられているバッテリーメーカーに歓迎される見通し。(ブルームバーグ James Attwood、Sebastian Boyd)