水害広域避難 議論大詰め 受け入れ先確保や誘導に課題

東京都江戸川区役所前に建てられた、荒川の水位を示す塔。この日は人の背丈ほどの高さだった
東京都江戸川区役所前に建てられた、荒川の水位を示す塔。この日は人の背丈ほどの高さだった【拡大】

 超大型台風が大都市の海抜ゼロメートル地帯を襲うと想定し、自治体をまたいで遠方に住民を誘導する「広域避難」をめぐる国の議論が大詰めを迎えている。洪水や高潮による浸水より前に、最大で100万人を超える住民を避難させる計画を打ち出しているが、避難先の確保や災害発生前の避難誘導に課題も残る。内閣府の有識者会議は今春にも被害軽減に向けた提言をまとめる見通しだ。

 ◆東京・江東5区

 内閣府が検証するモデル地区の一つが東京都の江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)だ。江東5区がまとめた被害想定では、計190平方キロのほぼ全域が浸水し、広域避難者は100万人を超える。5区全体で避難所に収容できる人数は50万人に限られ、浸水域内で被災するとみられる250万人の受け入れは困難だ。

 浸水の深さは最大5メートルを超え、2週間程度は水が引かない状態とされる。対策を進める江戸川区の幹部は「早期に広域避難しなければ、備蓄を頼りに浸水した自宅上階での生活を余儀なくされる」と救出作業の長期化を危惧する。

 江東5区の対策協議会は2016年8月、5区共同で広域避難勧告を発令し、前日までの避難開始を促す対策を提案した。ただ不確実な気象情報を基にした避難勧告に、どれだけの住民が応じるかは分からない。ある自治会幹部は「そもそもどこに広域避難すればいいのか議論が先送りされている」と指摘。移動困難な住民の把握や受け入れ先の確保、避難時の渋滞対策など課題は山積する。

 東京のほか、東海地域や大阪市などの大都市も同様の対策協議会を設置、各地で水害広域避難の議論が進んでいる。

 ◆東海・大阪でも

 ゼロメートル地帯が広がる愛知、三重、岐阜の東海3県15市町村や大阪市も、最大5メートル浸水する水害を想定。東海の15市町村では2400人の死者を予想し、大阪市でも梅田地下街の浸水などで100万人規模の被災を見込んでいる。

 内閣府の有識者会議は会合を重ね、広域避難者数の新たな推計方法を提示。江東5区で159万~178万人と試算した。東海3県は地元協議会が29万人としているが、各地で避難想定が再検討される可能性もある。有識者会議委員の一人は「避難者数を示すことは危機意識を共有する第一歩になる。理想論に終わらないよう米国の非常事態宣言のような避難の実効性を高める仕組みも必要だ」と話している。