【高論卓説】経済成長著しい中国・深セン

 ■「粤港澳大湾区」構想実現の牽引役期待

 中国にとって重要なマイルストーンとなった「改革開放」が始まったのは1978年だった。それから40周年を迎えた今年、中国ではさまざまな記念イベントが予定されているが、その成功例の中で特に注目されているのは当時経済特区に指定された深センの目覚ましい発展ぶりだ。

 北京、上海、広州、深センという中国の重要な4つのメガシティー(人口1000万人超の都市)の現在の域内総生産(GDP)を見ると、その中で面積が最も小さい深センが2兆元(約34兆円)を超えている。これは上海、北京に次ぐ経済規模で、広東省の省都である広州を追い抜き、香港を含めた「珠江デルタ地域」でトップに立っている。

 昨今、日本も含めた海外メディアは深センに熱い視線を送っている。深センの成功ストーリーは、香港の隣に位置する小さな漁村だったことから始まるが、当初は労働集約的な製造業が進出したことが発展の起点となった。90年代後半からは電子製品の模倣が盛んになり、深センは「山寨」(模倣、パクリの意味)の街として国内外で知られるようになった。

 近年は「山寨の街」から脱皮するため、これまでの発展で整備が進んだ産業基盤を強みにイノベーションを積極的に追い求め、経済のモデル転換を果たすことに成功した。深センに拠点を置く有名な中国企業は数多くあるが、先端技術を追求する国内外のベンチャーも多数進出する。現在、情報通信技術(ICT)分野を中心にイノベーション活動が活発な深センは「ハードウエアのシリコンバレー」と呼ばれる変貌を遂げた。

 そして、成長を続ける深センが牽引(けんいん)役となり、近隣地域と一体的に発展することでより大きな経済圏を作ることへの期待が高まっている。これが「粤港澳大湾区」構想の目的である。「粤港澳」とは広東省、香港、マカオの3地域を指すが、珠江周辺のベイエリアを中心とした広東省の9市(広州、仏山、肇慶、深セン、東莞、恵州、珠海、中山、江門)と香港、マカオを1つの経済圏として発展させる一大構想だ。この経済圏の17年のGDP合計は10兆元を突破し、世界一の経済圏を目指そうとの期待が膨らんでいる。

 成熟した金融市場を持つ香港、イノベーション力で際立つ深セン、モノづくりの先進地域である広州や仏山などを核にして、各都市が擁するリソースの補完と融合を図る。そのために交通インフラなどの整備を積極的に推進し、「粤港澳大湾区」の11の都市間における緊密な協力関係を構築する。そして国際的なテクノロジー産業の中心地として、相互の強みを発揮しつつ、ヒト・モノ・カネの流動性を高めることを狙っている。

 一方で、圏外の周辺地域との経済格差のさらなる拡大や、経済圏内の中核都市への過度なリソース集中などが課題になるとみられる。また、広東省は民営経済が発展し、比較的オープンな地域だが、「一国二制度」の下で香港、マカオとの制度的な壁を乗り越えられるかが最大の試練となりそうだ。

 ただ、深センがリードし、豊富なリソースを有する「粤港澳大湾区」の成長性は見過ごすことはできない。ベンチャーから大企業まで海外勢の動きは活発で、日本企業もこの有望地域にどう関わるかが問われている。

                  ◇

【プロフィル】趙●琳

 チョウ・イーリン 富士通総研経済研究所 上級研究員。2008年東工大院社会理工学研究科修了、博士(学術)。早大商学学術院総合研究所を経て、12年から現職。麗澤大オープンカレッジ講師なども兼任。38歳。中国遼寧省出身。

●=偉のにんべんを王に