「モスクワ・シティ」、実現遠い国際金融ハブ化 露企業が7割

凍り付いたモスクワ川から望むモスクワ国際ビジネスセンター、通称「モスクワ・シティ」のビル群=1月23日(AP)
凍り付いたモスクワ川から望むモスクワ国際ビジネスセンター、通称「モスクワ・シティ」のビル群=1月23日(AP)【拡大】

  • 「モスクワ・シティ」への移転が予定されている石油パイプライン独占企業、トランスネフチのロゴ(ブルームバーグ)
  • 1月28日、モスクワで行われたプーチン政権への大規模なデモ。深刻なリセッションなどを背景に、3月の大統領選のボイコットを呼び掛けるデモはロシア全土に広がった(AP)

 20年の歳月をかけて完成したモスクワ国際ビジネスセンター、通称「モスクワ・シティ」のテナントがようやく埋まりつつある。しかし、必ずしもこの地区を国際的な金融ハブにすることを構想していたロシア政府の当初の思惑通りにはならないようだ。

 ◆多くは国営銀行

 欧米からの制裁措置を受けているロシアでは、一部の大手企業が欧米の資本市場から締め出されている。モスクワ・シティの超高層ビル群に入るのは、国の機関や国営大手企業ばかりだ。中央銀行も職員の一部の移転について交渉中だという。

 3460億ルーブル(約6500億円)を運用する投資会社、リージョン・グループ(モスクワ)で、リサーチ責任者を務めるバレリー・バイスバーグ氏は「シティの現状にはロシア経済のトレンドが反映されている。結局、高層ビルの多くは国営銀行になってしまった。その他の企業はこれほど高い賃料を払えないのだ」と述べた。

 モスクワ西部のこの広大な開発地区には、間もなく石油パイプライン独占企業のトランスネフチが移転してくる予定。そして一部省庁も2018年中に同地区に移ることを検討している。

 マントゥロフ産業貿易相は昨年12月、できるだけ早く同省をモスクワ・シティに移転させたいが、少なくとも5月までは実現しないとの見通しを示した。

 オレシキン経済発展相も、統計局を含む同省の監督機関の一部を移転させる考えを明らかにしている。同相はインタビューで、現状は拠点が3つに分かれているため職員が外出しがちで、時間の無駄があると説明。移転により彼らを集結させることができると述べた。

 そして、中央銀行も高層ビルの並ぶ同地区にやってくる可能性がある。だが事情を知る関係者によると、まだ決定事項ではなく、モスクワ中央部の現在の本部から撤退するわけでもないという。

 モスクワ・シティの様相は初期の頃と比べると、大きく変わった。当初は、IBMやKPMGといった国際的企業がシティの構想にひかれて入居し、06年には外資系企業の割合が最大80%に上った。コリアーズ・インターナショナルによると、10年余り経過した現在、ロシア企業が全体の71%を占めるという。

 ◆信用収縮きっかけ

 このような変化が始まったきっかけは、約10年前の世界的な信用収縮である。シティの開発業者の破綻が相次いで、同地区の不動産の所有権が、債権者である国営銀行に渡ったのだ。ジョーンズ・ラング・ラサールのオフィス市場アナリスト、アレクサンダー・バジェノフ氏(モスクワ在勤)によると、15年にロシアがリセッション(景気後退)に入って新規オフィスの需要が激減したため、銀行はこれらのオフィススペースを自社で使用することを選んだという。

 同氏によると、モスクワ・シティの15年時点の空室率は40%に到達し、「こうした状況下で、金融機関は自社が所有することになったこれらの不動産に、自社のオフィスを入れることを考えるようになった」と述べた。

 シティの変化には、ここ数年で加速しているロシア経済の変化が表れている。すなわち、シティはロンドンの再開発地区「カナリー・ワーフ」のモスクワ版になる代わりに、ロシアのトップダウン型国家資本主義の記念碑になりつつあるのだ。ロシアの連邦反独占庁によると、ロシア経済に占める国営部門の割合は05年からの10年間で倍増し、70%に達したという。

 ロシアでは、14年に欧米からの孤立が深刻化し、石油価格の下落で経済に大打撃を受けて以降、国による企業買収が加速する一方だ。改革の議論は鳴りをひそめたままで、2年近くも続くリセッションの影響で頼りになるセクターも少ない。そこで政府が腕力にものを言わせることができるのだ。

 モスクワ・シティの場合、政府系の機関が入るようになったのは、経済危機のピーク時に空室率が急上昇したことを受けた窮余の策だった。コリアーズによると、現在は不動産の需要が上昇し、空室率は20%未満である。

 モスクワ・シティの賃貸料はモスクワの中でも最高水準だ。ジョーンズ・ラング・ラサールのバジェノフ氏によると、Aクラスのオフィスの場合、1平方メートル当たり4万4000ルーブルにもなる。

 アルファ銀行のチーフエコノミストのナタリア・オルロワ氏(モスクワ在勤)は「ロシア経済において政府の存在感が増していることが、シティにも影響を与えている」と指摘。そして、その影響が「直接的に発揮されているだけでなく、10年前には国の役割を強める計画などなかったセグメントの企業を通すという形でも発揮されている」と述べた。(ブルームバーグ、Evgenia Pismennaya、Andrey Biryukov)