マイアミ住宅建設にハリケーン対策

「モナド・テラス」の完成イメージ(JDSデベロップメント提供)
「モナド・テラス」の完成イメージ(JDSデベロップメント提供)【拡大】

  • 建物は海に面しており、駐車場の上にはプールが設けられる(JDSデベロップメント提供)
  • 内観のイメージ(JDSデベロップメント提供)
  • 建物の一部の壁は緑化される予定(JDSデベロップメント提供)

 米国フロリダ州マイアミビーチ市の海沿いに建つ59戸の高級分譲マンション「モナド・テラス」は、完成はまだ先だが、モデルルームは既にオープンしている。建設地から数ブロック離れたオフィスビルの1階に設けられたモデルルームには、物件完成前に購入を決めてもらおうと、白大理石のバスルーム、オープンキッチン、ガラス張りのベッドルームが再現されている。販売価格は約188平方メートルの物件で170万ドル(約1億8050万円)から、約1290平方メートルの物件で1200万ドルだ。

 ◆高波届かない設計

 モナド・テラスはフランスの設計事務所、アトリエ・ジャン・ヌーベルが設計し、同市を拠点とする建築家のコビ・カープ氏が現地の設計統括責任を負う。

 2017年末のある晴れた日の午後、カープ氏はモデルルームで来場者に対応していた。しかしカープ氏が説明するのはモナド・テラスのことではなく、通りの向かいにある古びたバンガローについてだった。

 1929年に建てられたそのバンガローは、92年にフロリダ州南部を襲って推定265億ドルの被害をもたらしたカテゴリー5のハリケーン「アンドリュー」に耐えたのだという。イトスギ材の構造に鉄筋が通してあり、強風にも屋根が飛ばされなかったと、カープ氏は説明する。

 バンガローの話を通してカープ氏が伝えたいのは、同市に建物を建てるべきでないということではない。建てるなら、より良い建物を建てるべきだということだ。

 モナド・テラスの仕様を見ていくと、この建物がまさにそれを体現していることが分かる。地上階は駐車場になっていて、ロビーは海面から約3.5メートルの高さにある。過去最高レベルの高波でも届かない高さに居住空間を置いた設計だ(ただ、今後はさらに大規模な高波が発生する可能性もある)。ガラスと金属の支持構造はカテゴリー5のハリケーンにも耐える強度を誇る。駐車場にはポンプが備え付けられており、万一浸水した場合も速やかに水を排出できる。

 カープ氏は「今日の進歩的な建築家はみな、気候変動を宣伝文句や解決策を生み出す好機と捉えている」と述べた。つまり、現在高級物件で富裕層向けにアピールされている機能は、近い将来に誰もが考えるべき必須事項になる可能性が十分にあるということだ。

 モナド・テラスだけでなく、同市、ひいては南フロリダ全域で高床式の構造やポンプ施設を備えた建物が登場している。しかし、昨年ハリケーン「イルマ」が襲来したときの、フロリダから脱出しようとする車の行列や、洪水に腰までつかりながら報告する記者の姿は記憶に新しい。物件の購入検討者に、大金を投じて手に入れる資産が水没する危険はないと納得してもらう必要がある。「洪水は問題だろうか? もちろんだ。その解決策はあるのか? もちろんだ」とカープ氏は語った。

 ◆地下水位上昇も警戒

 マイアミ都市圏は、気候変動の影響による異常気象の発生率が高まっていることに加えて「キングタイド(極端な大潮)」によって地下水が地上にあふれる現象が深刻な懸念となり、早急な対策が求められている。

 同市では現在、30基の排水ポンプが稼働中で、40基が追加される見通しだ。現在の排水対象は主に海からの流入と降雨で、地下水ではない。同市土木課の責任者、ブルース・モウリー氏は「現時点ではまだ地下水位が低いため、地盤を通過して水が地上に噴き出すことはない。しかし30~50年たてば、あるいは海面上昇が進めば、地下水位がどんどん地表や地下水脈に近づいてくるだろう」と指摘した。

 モウリー氏は既に、新規の住宅の床を高く造るよう、建築仕様や土地区画に関する規制を改めた。だがモウリー氏が現職に就いた2013年当時は、地域の美観を損なう恐れがあるとして、床が一定以上の高さになる住宅の建設は禁じられていた。モウリー氏は市庁舎の執務室から見える百貨店「メイシーズ」の建物を指し、「あの建物は将来に対応していない。地面に平たく建てられている」と述べた。

 ◆気象影響は現実問題

 モウリー氏はこのメイシーズの建物について、「水がすぐに入り口まで上がってくる。かといって簡単には改修できない。生き残るためには、将来のある時点で大改修をすることになるだろう。さもなければ移転するしかない」と語る。これを聞いたら、この建物の保険ブローカーは震え上がるかもれない。

 マイアミ市のフランシス・スアレス市長は「この町はいろいろな気象事象の影響を受ける」と話す。海面上昇、集中豪雨、ハリケーン、キングタイドによる洪水などを挙げ、「これらは現実の問題だ。モデルを作成している場合ではない。5年後、10年後、15年後、20年後を考えている場合ではない。既に目の前にある現象だ」と述べた。

 同市では昨年行われた住民投票で、異常気象対策の強化を目的とした4億ドルの一般財源債「マイアミ・フォーエバー・ボンド」が承認された。スアレス市長は「住民は自ら税負担を増やすことに投票した。これは極めて異例なことだ。しかし自分の最も大切な財産は何かと考えたときに、一番お金がかかっているのは家であることが多い」と話す。有名な高級マンションならハリケーンが来てもびくともしないかもしれないが、それ以外の戸建て住宅や古いマンションに住む何千人もの住民は、嵐や洪水に対して脆弱(ぜいじゃく)なのだ。都市計画関係者によると、同市では中長期的に低所得層の住宅地も含め改修、改良、防波堤の建設、可能な場合は住宅のかさ上げが行われる公算が大きい。

 マイアミビーチ市のモウリー氏は「災害対策の基準を都市全域に拡大すれば、そのためにどのような措置が必要になるにせよ、対策を実現することができる。モナド・テラスやそれに類する建物を見て、災害対策を盛り込みすぎだと思うかもしれない。しかし30年後、40年後にはこのような嵐に強い高床式のタワーマンションが標準になる可能性は十分にある」と指摘。「われわれは基準を引き上げている。そしてこの基準は誰にでも当てはまるものだ」と述べた。(ブルームバーグ James Tarmy)