印EV化、公共交通が先導 低い自動車普及率、配車など需要

  • インドのJBMグループが自動車ショーに出展した電気バス(右)=2月9日、印北部ウッタルプラデシュ州

 米電気自動車(EV)市場を牽引(けんいん)するテスラは米自動車市場の主流に参入するに当たり、高級モデルから普及価格モデルへと移行した。これに対し、EV黎明(れいめい)期にあるインドは、テスラと反対の方向に向かいつつある。

 ◆テスラとは真逆

 インドの自動車普及率は国民1000人当たり20台と、米国(同800台)とは大きな隔たりがある。

 モディ政権は2030年までにガソリン車など内燃エンジン車の3割以上をEVに移行する方針を打ち出しているが、インドの消費者の多くがEVを初体験するのは、公共交通機関や企業の社用車になりそうだ。こうした背景から、法人向けにEVを提供するリチウム・アーバン・テクノロジーズ(ベンガルール)など配車サービス会社は、事業を拡大しつつある。

 リチウム・アーバンの共同創業者、サンジャイ・クリシュナン氏は「5年後には電気自動車、電気バスを1万台所有しているだろう」と述べ、早ければ年内にも第1号の電気バスを所有したいとの考えを示した。

 自動車普及率が比較的低いインドでは、他国が抱えるEV化に向けた諸問題に見舞われることなくEV市場の急成長を実現するチャンスがある。また、公共輸送車両のEV化に最初は目を向けることが可能だ。

 インドの自動車大手マヒンドラ&マヒンドラ(M&M)のEV部門マヒンドラ・エレクトリック・モビリティのマヘシュ・バブ最高経営責任者(CEO)は17年12月に「当社は、テスラとは真逆に、公共交通機関を皮切りにして、その後上位モデルへとシフトする。輸送手段の電動化を考えるに当たり、公共交通機関について検討することが肝要だ」と話していた。

 ◆中国がお手本

 昨年11月にマヒンドラは、デリー、ハイデラバードで何百台ものEVを供給するため、米配車サービス大手ウーバー・テクノロジーズと提携した。インド政府がEV公用車1万台の調達に向け初めて入札を実施した際にも、マヒンドラはインドの同業タタ・モーターズとともにEVを供給している。インドでEV普及がどのような道をたどるかは、中国市場がどのように発展したかを見ればある程度予想がつく。

 ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)のアナリスト、ソフィー・リュー氏(北京在勤)によると、中国ではバスやタクシー車両、電気鉄道など、インフラ整備に手厚い公共投資が行われた後、個人消費者向けにEVが導入された。中国人は同様に、電動自転車、鉛蓄電池を動力とした低速EVという昔ながらの「遺産」を通じてEV技術に順応してきた。そしてBNEFによれば、カーシェアリングの車両の約75%がEVだ。

 米コンサルティング大手アクセンチュアや英小売り大手テスコを顧客に持つリチウム・アーバンは、機関投資家や戦略的投資家から2000万ドル(約21億3000万円)を調達しようとしている。同社の首都圏責任者、ジョイ・ナンディ氏の話では、今後半年の間に現在400台所有するEVの台数を2倍に増やし、ニューデリーでの事業拡大やチェンナイ、プネ、ムンバイ、ハイデラバードなどの都市への進出を計画しているという。

 ◆利益確保にめど

 リチウム・アーバンは社用車向けモデルとしてマヒンドラのEV「e2o」を利用している。ナンディ氏によれば、e2oは内燃エンジン車より走行費が安く、「ディーゼル車やガソリン車が1キロメートル当たり4~5ルピーかかるのに対し、EVは1ルピー以下だ」という。また、法人顧客が利用することで損益分岐点となる1日当たり最低175~200キロの走行距離が確保されると説明。さらにリチウム・アーバンは顧客のいる場所に充電スタンドを設置しており、ニューデリー市内とその周辺60カ所での設置に向けて政府と連携している。

 ただ米経営コンサルティング会社、ATカーニーのプリンシパルコンサルタント、ラウル・ミシュラ氏は、法人顧客や公共交通機関がEV採用に向けた最初の一歩を踏み出すとしても、化石燃料を動力源とする車両の販売を今後数年で全て終了するというインドの目標達成は難しいと指摘する。

 ミシュラ氏は「エレクトリックモビリティ(電動化技術)構想は排ガス問題への対応と電力部門の強みを生かす上で素晴らしいが、明確なロードマップのない目標は憧れにすぎない」とくぎを刺した。

 ◆政府調達で加速

 政府の公用車向けにEV調達の入札を実施した政府系エネルギーサービス会社エナジー・エフィシェンシー・サービシズ(EESL)は、EVの潜在的需要を50万台とみている。

 マヒンドラのマネジングディレクター、パワン・ゴエンカ氏は「西側諸国とは異なり、インドの公共交通市場でEVはかなりのシェアを獲得するだろう」と予想する。ゴエンカ氏は「政府による3輪車、4輪車、バスのEV化に向けた入札全てに応札したい」と意欲を示した。

 BNEFによると、オラやウーバー、リチウム・アーバンなど配車サービス会社による購入とともに、政府が定期的にEVの大規模調達を実施することにより、インドのEV採用が加速する見通しだ。

 BNEFのアナリスト、アレン・アブラハム氏(ニューデリー在勤)は、EVの採用加速で「多くのモデルを市場に投入したい他の自動車会社を呼び込める。また、その結果、消費者のEV認知度が高まり、充電施設のインフラ拡大を喚起し、新し物好きの消費者がEV購入に向かうだろう」と予想した。(ブルームバーグ Anindya Upadhyay、P R Sanjai)