難しい判断、現在と類似点も 市場混乱でも金融政策正常化模索 日銀議事録公表

 日銀が17日公表した平成20年1~6月の金融政策決定会合の議事録では危機の渦中でその深刻度を判断することの難しさが浮き彫りになった。金融市場が混乱する中でも、ITバブル崩壊後ようやくたどりついた政策の正常化を後戻りさせたくない思いや、利下げできる余地が小さく金融緩和を温存しておきたい思いが交錯。日銀は身動きが取れないままリーマン・ショックを迎えることになる。

 「日本経済が物価安定のもと持続的成長軌道をたどる蓋然性がかなり高いと判断される場合は、利上げという考えに変わりはない」

 須田美矢子審議委員は4月下旬の会合で強調した。

 日銀は18年7月にゼロ金利政策を解除し、このころも19年2月に続く利上げを模索していた。20年3月の「ベアー・スターンズ・ショック」によりリーマン・ショックに連なる金融危機が本格化したが、須田氏は世界的なインフレ懸念から利上げの必要性を説いた。

 一方、金融市場の混乱で市場関係者からはむしろ利下げ観測が浮上。ただ、正常化を始めたばかりの当時は政策金利が0・5%にすぎず、下げても大きな効果は期待できない。このため「深刻な景気後退に陥るリスクがない限り政策金利引き下げには引き続き慎重であるべきだ」(水野温氏審議委員)など市場の思惑に冷ややかな声が強かった。

 だが、日銀は結局、リーマン・ショック後の10月の決定会合で、政策金利を0・3%に引き下げる金融緩和を迫られることになる。

 サブプライム問題が表面化したころの経済環境は、10年後の現在と類似点が多い。景気回復が続く中で日銀の金融緩和が長期化し、緩和マネーで株価や不動産価格が押し上げられバブルを警戒する声も出ていた。

 ただ、異なるのはマイナス金利の導入など緩和規模が当時より拡大した現状では、想定外の景気悪化に対し打てる手が極めて少ないことだ。日銀は物価上昇率2%目標の実現に向け大規模緩和を粘り強く続ける構えだが、金利水準の微調整や国債を含む資産購入量の減額など、危機を見据えた備えが今後問われてくる。(田辺裕晶)