環境・食の安全 ゲノム編集焦点 利用拡大へ議論本格化

ゲノム編集で身の量を増やしたマダイ(上)と通常のマダイ(下)(木下政人・京都大助教提供)
ゲノム編集で身の量を増やしたマダイ(上)と通常のマダイ(下)(木下政人・京都大助教提供)【拡大】

 遺伝子を狙い通りに改変できる「ゲノム編集」をめぐり、環境や食品の安全を確保する規制の議論が本格化してきた。環境省は細胞の外からの「外来遺伝子」を組み込まない場合は規制対象外とする方向。専門家検討会の議論を経て年度末までに正式に決める。食品安全を担う厚生労働省も同様の方向で検討を始める。産業界の要請に応じた形で、近い将来、ゲノム編集で改変した生物が商品化される可能性もある。

 ゲノム編集は遺伝子組み換え技術の一種。近年「クリスパー・キャス9」という使いやすい技術が開発され、DNA上の遺伝子を切断して機能を失わせたり、外来遺伝子を導入して新たな機能を持たせたりできるようになった。手軽なため、この技術を利用した研究が急速に進んでいる。

 遺伝子組み換え生物の扱いは、環境への悪影響を防ぐため環境省などが「カルタヘナ法」で規制し、食品としての安全面は厚労省が評価している。だがゲノム編集は比較的新しい技術で、どう規制するか明確な方針が定まっていなかった。

 従来の遺伝子組み換え技術では、細胞外で加工した遺伝子などを導入して新たな機能を持たせる。一方、クリスパー・キャス9は外来遺伝子を使わなくても遺伝子が改変できる。外来遺伝子が混ざらない遺伝子変異は自然界や交雑による品種改良でも起きるため、こうしたケースは規制の必要がないというのが環境省などの立場だ。

 クリスパー・キャス9を利用し、商品化を見据えた研究開発の動きも出ている。

 農業・食品産業技術総合研究機構(茨城県つくば市)は、収量増が期待できるイネの研究を進める。京都大の木下政人助教(魚類遺伝子工学)らは、身が多いマダイを開発中だ。外来遺伝子が組み込まれておらず「遺伝子組み換え生物に当たらないと国が判断すれば、世間に受け入れられやすくなる」と話す。

 米国では、外来遺伝子を入れずに改変し、変色しにくくしたマッシュルームなどが規制対象外と判断されている。日本の方針が決まれば将来、基準に合う海外の食品が輸入される可能性もある。

 一方、ニュージーランドではゲノム編集技術を使えば規制対象となる。欧州連合(EU)では今月、規制対象にすべきだとの司法判断が下された。

 日本の専門家からは、カルタヘナ法の規制対象にならない場合でも「生態系への悪影響を防ぐ観点から、リスクに関わる情報開示が必要だ」との意見が出ている。環境省の検討会は、どのように改変したかといった情報を共有できる仕組みを議論する方針だ。