カンボジア、6日に新政権発足 人民党、独裁の批判回避に「対策」

カンボジア総選挙の投票所で自身の投票用紙を手に余裕の笑みを浮かべるフン・セン首相=7月29日、首都プノンペン(AP)
カンボジア総選挙の投票所で自身の投票用紙を手に余裕の笑みを浮かべるフン・セン首相=7月29日、首都プノンペン(AP)【拡大】

 7月29日に投開票されたカンボジア総選挙の結果に基づく国民議会が9月6日に開かれる。125議席の全てを獲得したカンボジア人民党のフン・セン党首が首相に就く予定で、翌7日には組閣のうえ、初の閣議が開かれる見込みだ。

 ◆抵抗を示した無効票

 今回の総選挙は、内戦終結後、国連暫定統治機構(UNTAC)の下で1993年5月に実施された制憲議会選挙から数えて6回目。以来、フン・セン首相は続投しているが、今回初めて、自身の党が全議席を独占した。しかし、その経緯には野党勢力への弾圧などがあり、国際社会の批判を受けている。

 今回の選挙は、高い投票率と無効票の多さが注目された。政党比例代表制の選挙には20政党が参加、投票率は83.02%で、前回2013年の69.61%を大きく上回った。議席を独占した人民党は有効票のうち約77%に当たる489万票を獲得。次点はフンシンペック党で38万票、続いて民主主義同盟党の31万票などとなっており、人民党が圧倒的な票数を獲得した。

 しかし人民党の圧勝の裏には、最大野党「救国党」の排除がある。前回13年の総選挙、昨年7月の地方選挙で、それぞれ4割以上の得票をして人民党の足元を揺るがした救国党だが、ケム・ソカー同党首が「外国と共謀して国家転覆を企てた」との疑いで逮捕され、17年11月に解党されてしまった。118人の幹部党員たちも5年間の政治活動禁止という処分を下された。

 選択肢なき選挙のなかで投票率が高かったのは、身柄拘束を逃れるため国外に出た野党政治家たちが「投票のボイコット」を呼びかけたことが関係する。人民党側はこのボイコットキャンペーンを警戒し、逆に投票へ行くよう強く促した。「投票しなければ救国党支持者」との見方をされたことも、投票率を押し上げた要因だ。

 それを示すのが、無効票の多さだ。無効票は全国で約60万票で、投票数の約8.5%に当たる。票数でいえば人民党に次ぐ「2位」となる。現地紙の報道によると、前回13年の無効票10万票の6倍にも及んだという。無効票の中には、投票用紙全体にバツ印をつけたり、選挙に参加できなかった救国党の名前を書いたり、人民党への「抵抗」を示す票も目立った。

 ◆民主化なき経済発展

 野党勢力や市民社会への弾圧の果てに成立した「一党独裁」。欧米諸国など国外から批判を受けたフン・セン政権は、新国会召集と組閣を前にした8月半ば、今回の総選挙に参加した20政党全てに、新設する「政策フォーラム」への参加を呼びかけた。非公式な組織ながら、国の方針や予算について「意見」を聞くという組織であると説明。これまでに16政党が参加を表明している。

 また、8月下旬には、フン・セン首相の進言に基づくシハモニ国王による恩赦が相次いだ。恩赦を受けた中には、3年前から服役していた救国党の14人の党員も含まれている。彼らは、14年の反政府集会での事件をきっかけに逮捕され、7年から20年の懲役刑に服していた。

 フン・セン首相は9月、米ニューヨークに渡り、国連の本会議に出席する。その場で国際社会から厳しい批判を受けることは必至だ。これら野党勢力への対応は、国会の議席は独占しても多党制政治を維持する考えであること、あるいは、弾圧した野党勢力との和解の道を模索していることなど、民主化勢力に柔軟な姿勢を示すためだと考えられている。ただ、国連本会議で国際社会の逆風を乗り切った後、フン・セン政権が再び独裁色を強める可能性はある。

 フン・セン政権の野党勢力弾圧や人権抑圧を批判した欧州連合(EU)は、特恵関税の撤廃を含む経済制裁をちらつかせながら、事態の改善を求めている。米国政府も選挙について「民主主義の後退」と強く批判した。

 しかし、真っ先にこの選挙を評価した中国は、援助と投資の両面において引き続き強い関係を維持しており、フン・セン政権にとっては強い後ろ盾となっている。また、カンボジアは、暫定軍事政権下のタイ、一党独裁のラオスとベトナムに囲まれている。欧米諸国からの批判を受けながらも、カンボジアは「民主化なき経済発展」への道を選び歩もうとしているのかもしれない。(カンボジア月刊邦字誌「プノン」編集長 木村文)