【中国を読む】スマートシティーによる社会変革 野村総合研究所・小川幸裕 (2/2ページ)


【拡大】

 同社は「ET City Brain」というスマートシティーのプラットフォームを構築している。本社を置く杭州市では主に交通分野で導入された。監視カメラで捉えた車両の運行状況など政府機関が保有するデータを集約し、リアルタイムの信号制御による渋滞マネジメント、交通違反の超早期の検知、緊急車両の早期現場到着などの成果を上げた。

 北京、上海、天津などの沿岸部や、重慶、西安などの内陸部にも展開。上下水道、医療など他の公共サービスのプラットフォームも構築している。

 日系企業も協業を

 アリババの取り組みは、自動運転やブロックチェーンなどの新技術の社会実装の場にもなっている。例えば国家級新区として建設が進む河北省の雄安新区では、同社傘下の物流サービス子会社、菜烏が開発した無人配送車「G plus」によるラストワンマイルの無人配送公道実験が行われ、恒華科技とのスマートグリッドへのブロックチェーン技術応用の共同研究にも着手している。18年9月にはボッシュ、フォード、ボルボなどの欧米企業と基本ソフト「Ali OS」を搭載した自動車での自動駐車ソリューションや「Vehicle to Home」の人工知能(AI)サービスなどで連携することを発表した。将来はET City Brainと連動したモビリティーサービスの高度化が期待される。

 今後の中国の事業戦略を考える際、さまざまな分野でITプラットフォーマーの存在感が強まることに留意すべきだ。日系企業はITプラットフォーマーとの協業で新たな事業展開への端緒を得られる。共同実験で、新技術を社会実装先行型で普及させ、試行錯誤を迅速に繰り返しながら課題把握と制度設計やソリューション構築を推進し、自社技術のPRを狙うべきだ。

 ITプラットフォーマーのスマートシティーは、既に海外輸出が始まっている。アリババのET City Brainは、マレーシア、インドなどへのトップセールスが始まっている。ファーウェイも欧州、アフリカ各国などを見据えている。中国発スマートシティーが他国市場でも影響し得るシナリオを踏まえ、全体戦略の中での中国市場の位置付けと今後の戦略を再検討する必要がある。

                  

 【プロフィル】小川幸裕

 おがわ・ゆきひろ 東大院修了。2011年野村総合研究所入社。グローバル製造業コンサルティング部主任コンサルタント。自動車、エレクトロニクス業界の事業戦略などを担当。32歳。北海道出身。