生産性を3割向上 鹿島、スマート生産ビジョンを本格運用

外壁材の取り付けをサポートするロボット=12日、名古屋市中区
外壁材の取り付けをサポートするロボット=12日、名古屋市中区【拡大】

  • 負担が大きく高度な技術が不可欠な、上を向きながらの鉄骨溶接作業。ロボット化を図ることで作業員はチェックを行うだけで済むようになった=12日、名古屋市中区

 鹿島は12日、建設労働者不足への対応などのため、建築工事の工程を大幅に変える「鹿島スマート生産ビジョン」を策定し、本格運用を始めたと発表した。情報通信技術(ICT)を活用したロボットや現場管理ツールを導入。作業の進捗(しんちょく)状況の確認といった単純業務は遠隔管理で対応できるようにする。建設業界では技能労働者の数がピークの7割まで減るなど人手不足が深刻化しており、政府も現場での合理化を後押し。しかしハードルの高さも指摘されている。

 鹿島は取り組みの第一弾として平成31年9月の完成に向けて施工中の「鹿島伏見ビル」(名古屋市中区)での運用を始めた。建設現場の状況確認のためドローンが自動巡回するシステムや、外装部材の取り付けをサポートするロボットなど18の技術・システムを導入。このうち「技能伝承システム」ではベテラン社員の目線位置などを録画して、社員教育に活用していく。

 また、施工中に得られる実績データやノウハウを今後の設計・施工計画に反映させる仕組みも導入。一連の取り組みで作業の種類は半減し、生産性は3割向上する見通しで、37年までにすべての建築現場に導入する計画だ。

 建設業界ではロボットを活用した省人化や、人工知能(AI)の導入による作業効率の向上が喫緊の課題となっている。技能労働者の数はピーク時の平成9年に比べ約7割の水準まで減少。特に若年層の建設業離れが顕著なのに加え、今後は高齢化の進展による大量離職も見込まれ、担い手不足が深刻化するからだ。

 政府もこうした動向を踏まえ、建設現場での生産性向上を重視。9月には石井啓一国土交通相と日本建設業連合会(東京都中央区)など業界4団体が働き方改革に関する意見交換会を持ち、合理化に向けた取り組みの進捗状況を確認しあった。

 鹿島の押味至一(おしみ・よしかず)社長は12日の会見で、「多くの若い人たちが建設業界に入ってくるようにするには、働き方がいかに変わっているのかを伝える必要がある。それには生産性の向上が不可欠」と、スマート生産ビジョンの重要性を強調した。

 ただし道路やトンネル工事などの土木工事に比べて建築工事は工程が複雑で、合理化のハードルは高く、竹中工務店の東野雅彦執行役員は「鉄腕アトムみたいなロボットが必要だ」と指摘する。建築現場でのICT・ロボット技術と現場管理手法をいかに高度化できるかが、建設業全体の合理化推進のカギを握るとみられる。(伊藤俊祐)