【論風】人生百年時代、AIロボを通じて考えた 社会は最適な労働環境を

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 この10月、米マサチューセッツ州ボストン市内に入り驚いたのは、街中の空高くに林立するクレーンと行き交う大型ダンプの行列。この30年慣れ親しんだ静寂そのもののマサチューセッツ工科大学(MIT)のケンブリッジは雑音に包まれて、もはや影形もない。(マサチューセッツ工科大学客員教授・庄子幹雄)

 聞けば今年に入ってとくにロボット、人工知能(AI)、医療技術などのベンチャー企業が大挙して押し寄せ、どのビルも竣工(しゅんこう)時点で満杯になる大盛況とのこと。同僚教授はMIT教員になって30年、初めての恐ろしき体験という。

 そういえばローガン空港であいさつを交わした何人かの中にやや不自然なウエスタンなまりを持つ音声を聞いたように思うが、まさかAIロボットではと同教授にたずねると「それは出迎えた学生が携えていた歓迎ロボットかもしれない」と笑いながら答える。

 AIロボットが人間を越えてしまうのではとの問いには、なんと「これからの自分たちの所定の教養課程レベルの講義はロボットに取って代わられるだろう」と真顔で言う。

異次元の社会が到来

 翻ってわが日本。人生百年時代の到来とかまびすしい。厚労省からも世界長寿国の仲間入りを果たしたとの有り難いご託宣。しかし、このボストンでの頭を殴られたような見聞からは近い将来、想像を絶するような全く異次元の高齢化社会が待ち構えているのだと心すべきときが来たと思わざるを得ない。

 すでに再生医療は人工多能性幹細胞(iPS細胞)治療をベースにほとんど全ての分野での効用実績が示され、超近代小説の世界ではいかなる疾患をも乗り越えることができる将来の人間生活が描き出されている。この事実をまずは共有しようではありませんか。

 AI、ロボットをはじめとする科学技術はこの先端医療技術の展開と相まって、百歳余を生きる人間生活を担保保障してくれるのである。単純労働は全てロボットに置き代わっていくのである。

高齢者の定義見直しも

 確かに東京五輪・パラリンピック騒ぎが一段落する頃には65歳入以上の高齢者(ともはやいうべきではない)が3600万人超、4人に1人がその域に突入する。それが少子高齢化と連動してあっという間に3人に1人が高齢者の世代に到達する。

 これが解決の方法として、ある人たちはいったん社会人生活を経験し家庭に入った女性たちに再登場願い、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング=時間、場所を自由に選択できる働き方)の場を用意するから働き手になってほしいと懇請するのが良いと言う。

 しかし、この方策では極端なカーブを描き減少し続ける労働者人口を支え切れるとは到底考えにくい。となれば、人生百年時代を迎えようとする今、高齢者の範疇(はんちゅう)も2025年には76歳、30年には77歳、そして50年には80歳以上と変えていかねばならないはずである。なぜならAI、ロボット、iPS治療等々、安心・安全の社会生活、人間生活の営みを支えていく技術開発には莫大(ばくだい)な費用を要し、それを全ての労働者からの税金で工面していかねばならないからである。

 ただ、今、問題となっている社会保障費は先端医療の恩恵により大幅に減少するので非健康者には直接的な生活費援助だけで済ませることはできよう。そしてここに待ってましたの働き方改革である。残業時間の規制、最低賃金の保証、イノベーションそして生産性の向上をうたうことに異論はないが、まずは労働者人口の減少をこそ第一に問題とすべきだと考えたい。

 筆者は前述の事由から社会が各年齢層に最適な職場を用意し、健康である限りは生涯働くことができる環境を整備することこそが重要であると主張したい。

【プロフィル】庄子幹雄

 しょうじ・みきお 東大農卒、1961年鹿島入社。2005年同社副社長退任。元日本計算工学会会長。07年NPO法人「環境立国」理事長。1996年から米ユタ大学名誉教授、2006年から現職。元経団連環境委員会部会長。元経済同友会諮問委員会委員。オリックス顧問。芝浦工業大学客員教授。京都大学工学博士。82歳。宮城県出身。