高論卓説

「お金がないなら刷ればよい」 現代貨幣理論と左傾化、日本にも意外な政治勢力 (1/2ページ)

板谷敏彦

 お金がないなら刷ればよい。「独自の不換(金銀と交換できない)通貨を持ち、公的債務(国債)の大半が自国通貨建てで、かつ為替が変動相場制をとる主権国家(つまり米国、英国や日本)は決して財政破綻しない」。ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授らが主張する現代貨幣理論(MMT:Modern Monetary Theory)の中の最も注目されるポイントである。

 現実に日本は先進国では異常なほどの対GDP比国家債務残高を持ちながら、インフレもなければ一向に金利が上昇しないMMTの実例として紹介されることもある。今は、上記ケルトン教授の7月来日が決まりさらに注目が集まっているところだ。

 もともとは1980年代に米国レーガン政権、英国サッチャー政権、日本では中曽根政権が緊縮財政や国営企業の民営化など新自由主義的な政策を取ったことから、ケインズの時代に見られたような国家の公共事業による雇用保障政策は採用されなくなり、雇用は個々人の能力に依存するようになったことに発端がある。いわゆる自己責任時代の到来である。しかしその結果一部の富める者はさらに富み、大多数の貧しき者は貧しいままに放置された。

 金融関係者は誰も驚かなかったが、最近の日本での「老後2000万円問題」に対する過剰な反応は、現代社会はもはや政府が「ゆりかごから墓場」まで保証してくれないことを改めて世間に認知させた。そこにはご自身で資産運用をして老後に備えよと書いてあったのだ。

 自己責任の根本原因は財源の問題に行きつく。社会保障費によって政府債務は膨張し、将来の財政破綻を避けるべく消費増税も決行するのであって、国にはもはや社会保障に回すお金はないのだ。

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