専欄

建国70年 独自の道を誇示する中国

 建国70年を迎えた中国が世界に深く印象付けたのは、これまで歩んできた道に対する強い自信であるように思われる。(元滋賀県立大学教授・荒井利明)

 共産党が1949年に樹立した新中国は、日本との戦争、国民党との内戦によって、非常に疲弊していた。中国の指導者やメディアは70年を語る際、その疲弊した国が米国に次ぐ第2の経済大国に成長した「奇跡」をもっぱら取り上げた。数千万人の餓死者を出した大躍進政策や「内乱」に過ぎなかったとして自ら断罪した文化大革命(文革)に触れることはまずなかった。

 そうした大いなる失政のあった毛沢東時代は、中国の特色ある社会主義を模索する過程として位置付けられ、大躍進、文革の誤りは単に否定すべきものではなく、貴重な経験、教訓であり、それによって改革開放は順調に進展したとされた。

 「奇跡」実現の秘訣(ひけつ)は、社会主義と市場経済を結合した中国の特色ある社会主義にあり、その「最も本質的特徴」は共産党の指導にあるというのが、今日の正統的な認識である。そして、中国の特色ある社会主義は、西側とは異なる現代化の道を切り開き、「強大な生命力と非常な優越性」を持っていると胸を張るのである。

 中国政府が70年を記念して9月末に発表した白書「新時代の中国と世界」は、「中国の発展の最大の啓示は、一国の発展の道はその国の現実に立脚し、発展レベルに基づき、その国の人民が決定しなければならないということである」と強調し、「中国の発展は他の発展途上国に経験と手本を提供した」と述べている。また、党機関紙「人民日報」(10月1日付)の70年を記念する社説は、「中国の特色ある社会主義の大きな成功は、いずれの国も最終的には西側のモデルに帰着するという単線型歴史観の破綻を宣言した」と主張している。

 スターリンの死後、社会主義世界でのリーダーを目指した毛沢東は失政によって権威が失墜し、そのマイナスの遺産を受け継いだトウ小平は改革開放で先進国に追いつくことを目指した。習近平の時代になって、中国はようやく世界に自己を誇り得るときが訪れたのである。

 ただ、今後の発展も決して容易ではない。だからこそ習近平は中青年幹部を対象にした中央党校での演説(9月3日)で、「闘争精神を発揚し、闘争の技量を高めなければならない」と呼びかけたのである。(敬称略)

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