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国のキャッシュレス還元がこんなにも酷いワケ 「増税と同時」に行う“愚策” (2/2ページ)

 次に、どこで使えるかが分かりにくい。導入が周知されており、「このチェーンなら使える」ということが明確な大手はともかく、導入している店舗とそうでない店舗が入り交じる個人商店では、まず「使えるか」を確認するのが手間だ。使えるキャッシュレス決済が限られる場合もあるが、そこまで把握しないといけない。経済産業省はポイントバック対象店を登録制にし、登録店舗へとステッカーやポスターを配布して周知に努めているが、その掲示が徹底されているわけでもない。

 店舗検索のために用意されたアプリやウェブサイトの出来は悪く、当初は店舗をただ並べたPDFが掲示されているだけだった。店舗によっては、決済事業者ごとに登録された住所に間違いがあり、「同じ店舗なのに別々の場所にあるように表示される」こともあった。

 要は「街中で偶然出会う」しか、大幅ポイント還元をしている個人商店でキャッシュレス決済をする方法がないのである。これで本当に、狙い通り「中小以下の事業者のキャッシュレス決済利用比率を上げる」ことができているかは疑問だ。

 わざわざ「増税と同時」にやって負担を増やす愚策

 そもそも今回は、「軽減税率」という複雑な税制と同時に導入が行われた。両者は特に関係ないのだが、ITシステムの支援がなければ運用ができない、という点は共通している。

 税率変更はただでさえ現場に負担をかけるのに、そのタイミングに合わせてさらに複雑なキャッシュレス推進策を導入する意味はあったのだろうか。政府としては増税のガス抜きを期待しているのだろうが……。

 キャッシュレス決済が不要なわけではない。本来、キャッシュレス決済は消費者側の利便性が大きく、店舗側でも経理処理の軽減にも通じる。税制的にも透明化につながり、コスト削減にもなる。

 だが、現金が中心で一部だけをキャッシュレス化する、という形だと、経理処理は多重化してしまう。消費者の側も、慣れないキャッシュレス決済の利用で戸惑いが生まれる。本来は、導入事業者への本格的な税制優遇や、税務処理の手間を軽減する策とセットになって初めて効果を発揮する。

 現状では、特に店舗での顧客対応の手間が大きく、個人商店にとってはプラスとはいえないのではないか。誰もがスマホアプリの設定や利用に詳しいわけではない。コンビニの店先などでも、店員にキャッシュレス決済の利用法をたずねる姿が見かけられたが、そういう人的負担を店舗に強いるのは間違っている。

 なんでも同時にやるのではなく、負担軽減や利用促進のためのアプリ開発といった準備を「ちゃんとしてから」やるべきだったのだ。今回の施策は拙速に過ぎる印象が拭えない。

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 西田 宗千佳(にしだ・むねちか)

 ジャーナリスト

 1971年、福井県生まれ。パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」を専門とする。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。

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 (ジャーナリスト 西田 宗千佳)(PRESIDENT Online)

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