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和歌山県議会の海外視察は観光旅行? 報告書1枚だけ、行程説明しただけの内容も

 和歌山県議会が過去に行った海外視察で、県議に義務づけられている報告書が日程や訪問先を書いた1枚から数枚だけというケースが何度かあったことが明らかになり、「単なる観光旅行だ」と県民の批判を浴びている。県議会は視察結果を踏まえた一般質問を行い、その議事録をホームページ(HP)で公開するなどとした改善策を決めた。しかし、オンブズマンの関係者は「視察を政策に生かすのは当たり前。何が問題視されているのか(議員に)自覚がない証拠だ」と厳しく批判している。(前川康二)

 県議会事務局によると、県議会の海外視察は平成27~30年度では計11回。観光客の呼び込みに向けた調査や県産品の販路拡大などを目的に中国やマレーシア、インドネシアなどを訪れていた。

 視察の際は各議員が議長に申し出て、承認を得れば交通費と宿泊費が県議会予算から支出される。27年度~30年度では、1人当たり約14万円~約60万円が支出された。

 実施規定では、議長に報告書の提出が義務づけられている。しかし報告書はHPなどで公開しておらず、市民が閲覧したい場合は情報公開請求をする必要がある。

 産経新聞が情報公開請求で入手した資料によると、海外視察11回中、3回分の報告書(A4サイズ用紙)が1枚だった。内容も日程や訪問先などが記載されただけ。数枚のものでも、訪問先の関係者の名刺を貼り付け、行程を説明しただけなど簡単な内容で済ませていたケースが散見された。

 こうした対応が批判を浴び、県議会は今年3月から、正副議長や各会派の代表者らが協議し、改善策を検討。「内容を詳細にし、インターネットで公開を」「視察自体を見直すべきだ」「現状のままでいい」などさまざまな意見が出たが、半年がかりでようやく合意に達した。

 その内容は、海外視察で得た知見を生かした一般質問の実施▽議会の議事録を閲覧しやすいよう県議会HPの改修▽報告書に視察の成果や活用法を盛り込むこと-など。

 ただ、報告書の様式は従来のままとし、肝心の分量についても取り決めなかった。市民が閲覧したい場合も従来通り情報公開請求が必要。HPによる議事録閲覧は今年12月以降分のみが対象で、それ以前の分は検索できない。

 岸本健議長は「議員に一番重要な本会議の一般質問に視察の成果を反映させる。一生懸命活動していることを県民に明確に知らせたい」と理解を求める。分量や様式については「ページ数ではなく、中身の問題。指摘いただかないようなものを作りたい」、HPでの報告書公開については「そういう意見は(議員からは)なかった」と説明した。

 議員側の受け止めはどうか。ある県議は「視察は長期的な関係構築などが目的。すぐに成果が出る性質のものではない。おのずと(報告書の)分量は限られる」と話す。別の県議は「報告書の作成は手間がかかる。大部分の議員は『議場でのやりとりで説明は事足りている』という認識だ」と明かす。

 しかし、今回の改善策にも不十分だとする声は多い。「全国市民オンブズマン連絡会議」の新海聡事務局長は「報告書は視察内容を客観的に明らかにするもので、議場でのやりとりとは性質が違う。質問の前提となる視察の内容が明らかにされなければ、効果や是非を検証できない」と指摘。「そもそも(視察成果を県議会の)一般質問に生かすのは当たり前」と切り捨てる。

 一方、報告書問題について、仁坂吉伸知事は「あくまで感想」と前置きした上で、「県議会では演説の形でものすごく丁寧に(視察内容を)説明されている。あれをそのまま報告書の形にしておけばよいのでは」と“場外アドバイス”をしてみせた。

 海外視察の報告書のHP公開は、近畿の府県議会では京都府と奈良県が行っている。海外視察は京都府の場合、事前に訪問場所や目的などについて有識者から助言を得て実施。奈良県は26年以降は実施していない。大阪府、兵庫県、滋賀県は議会として海外視察を行っておらず、実施している中で公開していないのは和歌山県のみだ。

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