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一時の“熱気”に巻きこまれたソフトバンク 世界経済との恐い関係 (2/2ページ)

 その中で、ソフトバンクはAIが人間の知性を超越する時代を見据え、先端テクノロジーなどに強みを持つ企業への投資を急速に拡大した。その考えは、ITを駆使して石油依存度を低下させようとしたサウジアラビア政府などの共感を得ることもできた。

 同年12月に米トランプ政権が1.5兆ドル規模の減税を実施し、世界経済への楽観が追加的に高まったことも、ソフトバンクへの期待を高めただろう。

 熱気に巻き込まれ、冷静さを欠いた

 しかし、2018年に入ると、中国経済の減速が鮮明化した。共産党政権による景気刺激策にもかかわらず中国経済が持ち直す兆しは見られない。中国経済は成長の限界を迎えたと見られる。

 また、米国は中国に制裁関税を賦課し、米中貿易摩擦が世界経済を下押ししはじめた。世界的にサプライチェーンが寸断され、製造業の景況感が急速に悪化した。世界的なデータセンター向けの投資減少なども重なり、世界の半導体市況も悪化した。

 7~9月期の業績を見る限り、ソフトバンクには、一時の“熱気”に巻きこまれ、変化を冷静に見極めることが難しかった部分があったとみられる。そのため、冷静に投資先企業のビジネスモデルや創業者の資質を冷静に見極めるよりも、積極的な投資拡大を優先してしまったようだ。

 それは、決算会見にて孫氏がウィーカンパニーへの出資が「高すぎた」と反省の弁を述べたことから確認できる。

 景気が一段と減速する可能性も

 当面、ソフトバンクの業績がどうなるかは不透明の部分が残る。現在、個人消費を中心とする米国経済の落ち着きが、世界経済を支えている。今すぐに世界経済が大きく落ち込む可能性は低い。世界的に株価も高値圏を維持している。アリババをはじめとするソフトバンク保有株式の評価額は約28兆円にまで上昇している。

 ただ、世界経済の先行きは楽観できない。米中の貿易摩擦にはIT先端分野での覇権争いや中国の産業補助金など、短期間での解決が難しい分野も含まれる。米国政府内には、米国企業などによる対中投資を制限すべきとの意見もあるようだ。米中間の制裁・報復関税がどうなるかも見通しづらい。

 景気循環の観点から見ても、米国では企業の設備投資が鈍化している。景気が一段と減速する可能性は軽視すべきではない。中国では生産・投資・消費が低迷し、さらに景気が落ち込む恐れもある。当面、ソフトバンクを取り囲む事業環境の不確実性は高まりやすい。

 一方、長い目で考えるとソフトバンクの成長期待が高まる展開もあるだろう。世界全体でAIが活用される分野は増えるだろう。企業や家庭など様々な経済活動の場において、スマートスピーカーやAIを搭載した機器が使われ、“IoT(モノのインターネット化)”に関する取り組みも加速すると期待されている。

 不透明要素が残る今後の業績見通し

 このように考えると、ソフトバンクが傘下および投資先企業の成長を取り込むには相応の時間がかかるだろう。それまで、ソフトバンクは安定的に収益を獲得し、事業や経済環境の変化といったリスクへの抵抗力をつけなければならない。

 そのために、ソフトバンクは収益基盤の整った企業との経営統合を重視しはじめたようだ。ヤフーを運営する傘下のZホールディングスが、無料通信アプリ大手のLINEと経営統合に関して協議しているのはその表れといえる。

 現時点で、そうした取り組みの実現を含め、ソフトバンクの収益にどのような変化があるかを予想することは容易ではない。同時に、ソフトバンクはスタートアップ企業などへの投資を重視する姿勢を崩していない。ソフトバンクの業績がどうなるか、不透明な部分は多いと考えられる。

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 真壁 昭夫(まかべ・あきお)

 法政大学大学院 教授

 1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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 (法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)(PRESIDENT Online)

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