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日本はマスクですら自給自足できない国になっていた トヨタ製造の真の意味 (2/2ページ)

 今回のコロナをきっかけに、あらわになったことは、マスクや人工呼吸器ですら自給自足できない国になっていたことを知ることになりました。日本はマスクを中国からの輸入に8割を依存していたのです。新型コロナウイルスの感染が拡大すると、中国はマスクを国家応急備蓄物資に指定し、国内に供給するため、マスクの輸出を禁止したことで、医療関係物資が国家の戦略物資の様相を呈しました。

 日本が陥った負のスパイラル

 マスクを自給自足できない国になった背景には日本のデフレ構造があります。日本経済は1980年代後半のバブル崩壊以降、土地や株式などの資産価格の下落がマクロ経済に大きな影響を与えることを経験してきました。特に日本の金融は土地資産を担保とした融資が多く、不動産価格の下落が銀行融資の抑制につながり、その結果、景気のさらなる悪化と資産価格の下落を引き起こすというデフレスパイラルがみられました。そして、産価値が下落すると、負債を抱えずに借金などは早く返そうという動きになります。

 つまり、「資産の縮小」と「負債の縮小」が始まるのです。これによって、企業は生き残りをかけますが、業績が向上しない状況が続きました。欧米であれば、今回のコロナでも明らかなように雇用調整をバッサリ行います。しかし、日本は雇用調整を行わずに、雇用を守りながら経営を続ける道を取ってきたのです。

 そして、立ち行かなくなった企業は国内のサプライチェーンを海外に持っていくことで、いかにコストを圧縮し安いモノを作れるか、その場所に限界が来れば、さらに安く生産できる場所に移るといった負のスパイラルを繰り返してきたのです。

 せめて医療物資だけでも、国内製造回帰が望ましい

 これによって、安価なモノが日本に流入し続け、モノの価値が下がり続け、国内での生産はまるで「悪」のように見なされてきました。しかし、今回の感染リスクを目の当たりにして、医療の安全保障上の観点からも、せめて、医療物資に関するものだけでも、国内製造回帰が望ましいことが、明らかになりました。

 マスクのほかにも、人工呼吸器や防護服などの不足で、日本は医薬品、医療機器、医療用品の輸入依存率が高いことが露呈しました。今後は医療関係の自給率の向上させていく必要があります。中国はすでに米国に次いで、世界第2位の医薬品生産国になっています。中国は「中国製造2025」の重点分野として、バイオ薬品とハイテク医療機器を指定しており、国際競争力の強化に力を入れています。

 日本は医療の安全保障上とても危険

 今回のコロナウイルスのワクチンや治療薬、治療法の開発も進めていますが、コロナを機に中国製品を浸透させ、世界の医療・福祉分野で主導権を握る意図も感じられます。

 リーマンショックの際に、中国は内需拡大策を打ち出し、鉄鋼などの生産能力を一気に拡大しています。それにより、廉価な中国版の鋼材が世界中に流入したことがあります。これと同じことが、医療用品などの分野で起きる可能性があります。中国製の医薬品に依存し過ぎる体質は、医療の安全保障上も非常に危険であることを、日本も考えるべきなのです。(テクニカルアナリスト 馬渕 磨理子)

 馬渕 磨理子(まぶち・まりこ

 テクニカルアナリスト

 京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。

 (PRESIDENT Online)

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