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中国の民法典に盛り込まれた「離婚冷静期」 その背景

 世界中がコロナ禍の真っただ中にあった5月末、いち早くコロナ勝利宣言をした中国では、延期されていた全人代(全国人民代表大会)を北京で開催した。日本の国会に当たり、この場で憲法改正や法律の制定などが審議される。(ノンフィクション作家・青樹明子)

 香港問題など注目点は多いが、今年庶民に熱い議論を巻き起こしたのが、民法典に盛り込まれた「離婚冷静期」である。離婚届を提出してから30日間、夫婦のどちらかが撤回を申し出たら、離婚届が無効になるというもので、いわば離婚のクーリングオフと言っていい。2021年1月から実施される。

 発表と同時に「#離婚冷静期」がホットワードになり、人民日報のウェブサイトには12億人がアクセスし、56万人超が書き込みをしたという。

 多数を占めていたのは「離婚すら自由にできないのか」という憤懣(ふんまん)である。

 「国が期待する効果は出ない」「国は庶民の不満が分かっていない」「離婚がこんなに難しくなるのなら、結婚なんかしたくなくなる」

 国が目指した方向とは逆のようで、具体的に言うと「人生に、2回目なんてあり得ない。早く次に進むしかない」「むつまじい家庭、なんて理想すぎる。政策立案者は、ほんと理想ばっかり」「表面化されにくいDV(家庭内暴力)などはどう解決していくんだ!」(法ではDV、重婚、賭博などによる離婚はこの範囲でないとしている)…。

 なぜこのような法律ができたのか。中国トップキャスター、白岩松さんの言葉を借りると「(離婚冷静期とは)離婚の自由を奪うものではない。衝動的な離婚を止めるのが目的だ」そうだ。

 確かに中国で離婚は多く、19年に婚姻届を提出したのは約950万組だったのに対し、離婚届は約415万組で、単純計算すると離婚率は44.1%となる。

 日本にも「成田離婚」という言葉があったが、中国の1980年代、90年代生まれの一人っ子たちは、衝動的結婚・離婚も多い。

 私が非常に親しくしている女性は、母親があまりにうるさく結婚を迫るので面倒になり、ネットで知り合った男性と衝動的に結婚したという。しかし結婚2日目で後悔し、すぐさま離婚した。母親は離婚の事実さえ知らないのだそうだ。

 不動産売買に関わる偽装離婚も減らない。節税対策などで、離婚という仮の形をとった結果、そのまま本当の離婚に至るケースも少なくない。夫婦双方が納得しての離婚ではないので、どちらかに不満が残りやすい。

 衝動的結婚と衝動的離婚は、表裏一体である。離婚冷静期と同時に結婚冷静期も必要なのかもしれない。

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