専欄

中国の「コロナ白書」を読む 理念や方法を誇っているが…

 元滋賀県立大学教授・荒井利明

 中国政府は今月上旬、新型コロナウイルスとの闘いを記録した「コロナ白書」を発表した。習近平および共産党の指導があったからこそ、感染制御の成果を挙げることができたと誇示する内容である。

 約3万7000字の白書は、武漢市の病院が原因不明の肺炎患者の発見を市政府に報告したという昨年12月下旬から今年5月末までの感染状況とその対策を詳細に述べている。その中で目立つのは習近平の言動で、習近平が感染症との闘いで、「自ら指揮し、全局を統括し、果断に政策を決定した」として、指示や要求、会議の主宰など38件の言動を明記している。

 白書によると、習近平は1月7日の党中央政治局常務委員会で、感染制御の活動を適切に行うよう「要求」したという。これが今回の感染症対策における習近平の最初の言動だが、要求の具体的な内容は記されておらず、習近平もこの時点ではそれほど深刻には受け止めていなかったものとみられる。

 習近平が次に白書に登場するのは、「重要な指示」を行ったとされる1月20日である。その指示について、「人民の生命、安全、健康を第一とすること」「感染に関する情報を速やかに公表し、国際協力を強化すること」などを強調したと記している。白書は前日の19日に専門家チームが人から人への感染を確認したと述べており、習近平がこの感染症を真剣に受け止めたのはこれ以降で、それが20日の指示になったといえよう。

 白書では米国と感染症対策に関して交流、協力を行ったとする記述も目立つが、そうした記述は2月18日までで、その後はみられない。実際に交流、協力が行われなくなったものと思われる。トランプが大統領選を意識して中国や世界保健機関(WHO)への批判を強め、米中関係がさらに悪化したことと関連しているだろう。感染症対策で米中両大国が協力できないのは、人類にとって極めて不幸なことである。

 白書が強調する対策の核心は「四つの早い」(早期発見、早期報告、早期隔離、早期治療)である。早期発見の前提は早期検査で、その象徴が武漢の全市民を対象としたPCR検査だろう。

 白書は感染症対策での「中国の理念」や「中国の方法」を誇っているが、「人命第一」や「四つの早い」は病気治療の王道であり、それをしないのは政治の怠慢でしかない。それほど誇ることでもないだろう。(敬称略)

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