海外情勢

じわじわと迫る“死” クルーズ400隻、廃船の岐路

 世界の約400隻のクルーズ船が商業運航再開のめどが立たず、係留が長期間続いている。新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)収束まで係留を続ければ、莫大(ばくだい)なコストで運航会社は大幅な損失を被るだけでなく、休航中のメンテナンス次第で廃船を余儀なくされる可能性もある。維持管理やハリケーンのリスクなどかつてない規模の課題を抱え、業界は苦境に陥っている。

 月に2億5000万ドル

 小型の高級クルーズ船「アザマラジャーニー号」は、通常使用される市外のクルーズ船係留施設でなく貨物港に係留されるため、英グラスゴー市中心部に向かいクライド川を上った。異例の風景を見るため川岸に沿って並ぶ人々は汽笛に湧き立ったものの、700人乗りのクルーズ船の甲板で手を振ったのは、運航に最低限必要な20人余りの乗員のみ。パンデミックにさいなまれ廃船の岐路に立つクルーズ船の帰港は、いつもの華やかな到着風景と同じでなかった。

 世界最大のクルーズ客船運航会社、米カーニバル・コーポレーションは運航再開のめどが立たない中、3~5月期に44億ドル(約4700億円)の損失を計上した。所有する全船舶の運航を停止した場合、1カ月当たりの維持管理費が2億5000万ドルに上るという。

 クルーズ船を休航させる場合最初の壁は係留場所の確保だ。特に8880人もが乗船できる大型船が嵐をしのげる適切な環境の係留場所を確保するのは容易でない。運が悪ければ海上でいかりを下ろし、食料や燃料の調達に時折最寄りの港に向かわなければならない。カーニバルで船長を統括するビル・バーク氏は「当社は105隻の船舶を所有し、世界各所に分散して係留中だ。6~8月期も係留場所を探す」という。

 係留場所が確保できれば次に壁となるのは、適切な維持で高額な修繕費を避けるため、休航中も船舶のシステムを常時運転状態にすることだ。業界では大きく分けて2通りの休航の方法を取る。一つはほとんどのシステムを稼働させるワームレイアップ。他方は多くのシステムを停止させるコールドレイアップだ。

 ワームレイアップは数週間で商用運航を再開できる利点がある半面、大型船では休航中も120人ほどの保安要員が必要だ。また、海事情報会社ロイズリストのアナリストらによると、期限6カ月と短い航行許可証もあるため、機器を半運転の状態にするワームレイアップを続けられる期間は短い。

 一方、コールドレイアップは運転し続けるシステムが少ないため休航中の乗員は40人ほどで済むものの、停止に近い状態からのシステム再始動は難しいうえにコストも高くつく。リスクマネジメント組織、ロイドレジスターの休航ガイドによると、運航再開にはポンプ室から客室部分まで船体の隅々までガス漏れやカビなどの点検が必要になる。ナビゲーションシステムなどの電子機器や除湿器などは取り外して点検しなくてはならず、何カ月間も続く長期の休航の場合にのみ選ばれる。バーク氏は「運航再開には数週間から数カ月かかり、再開が遅れる原因も多数ある」という。

 じわじわ迫る「死」

 だが全てのシステムを停止するさらに徹底した選択肢もある。クルーズ船の歴史に詳しいピーター・ネゴー氏は「この場合、最初に配管設備がさびで崩壊し次に空調設備や配線が駄目になる。海上の塩分を含んだ空気で全てが急速に腐食する」と語る。

 こうしたじわじわと迫る痛みを伴う「船の死」に対し、応急処置をやめる運航会社も出ている。カーニバルは今期財務報告で少なくも6隻の古い船舶の引退を発表。他社に売却するかスクラップになるかは未定だ。伊コスタクルーズの24年目を迎えた「コスタビクトリア号」はスクラップが決定している。(ブルームバーグ Fran Golden)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus