成人の7割近くが銀行口座を持たず現金志向が強いフィリピンで、新型コロナウイルスの流行を機に支払いや納税のオンライン化が進み始めた。中央銀行は電子決済を推奨し、インターネットバンキングに力を入れる地方銀行も。非接触決済への移行で、多様な金融サービスの波及につながりそうだ。
「コロナの感染拡大を防ぐため、安全で便利な電子決済を拡充したい」。中銀のジョクノ総裁は4月下旬、電子決済システムを取り入れる金融機関に対し、認可手続きに必要な各種費用を半年間免除すると表明。国として電子決済を後押しする姿勢を打ち出した。
通信大手グローブ・テレコム系の電子決済サービス「Gキャッシュ」はコロナ禍を受けて「空前の伸び」(地元メディア)を見せ、5月の決済額は前年同月比8倍に上った。外出制限期間中に通信販売の需要が高まったことや、一部の自治体がオンライン納税を導入したことが寄与した。
感染拡大防止のため、3月中旬からサービスを停止していた配車大手「グラブ・フィリピン」は、電子決済アプリやカードでの支払いに限定するとの指針を設け、6月に再開した。
フィリピンでの全支払いに占める電子決済の割合は2025年までに75%に達するとの見通しもあり、現金離れが着実に進むとみられる。
南部ミンダナオ島に本店を置くカンティラン銀行は昨年、国内の銀行で初めて基幹システムをクラウド化した。台風や地震で事業所が被害を受けてもシステムを維持でき、管理コストも削減できる。銀行から離れた地域でも通信端末があれば金融サービスを受けられるようネットバンキングの普及にも力を注ぐ。
ホッチキス頭取は「地銀が生き残るには最先端技術を導入するしか道がないと判断した」と話す。期せずしてコロナ禍がオンライン化を進める経営方針に追い風になった。同行担当者は「フィリピンはスマートフォンやソーシャルメディアの普及率が高く、オンライン化しやすい環境が整っていた」と説明。金融サービスの裾野が広がるとの期待感を示した。(マニラ 共同)