景気崩落 消費税10%から1年

税率引き下げ 絵空事か

 7月28日、自民党の若手議員有志が国会内で開いた会合に、安倍晋三前首相の経済ブレーンとして知られる本田悦朗・元内閣官房参与の姿があった。

 「3次補正が必要だ。その一つの目玉が消費税減税ということではないか」

 演台に立つ本田氏の弁に熱が入った。

 新型コロナウイルス感染拡大で経済活動が急減速する中で3次補正が浮上しているのは、2度の補正予算を含めた政府の経済対策が十分ではないとの見方があることを意味している。対策の事業規模は230兆円超に上るものの、国民生活や企業活動の窮状を救う“止血”が中心。感染収束後を視野に「経済を直接引っ張り上げる」(本田氏)対策を新たに講じるなら、消費税減税が有力な対策になるといえる。

 補正の目玉だった一律10万円の現金給付にも一部が貯蓄に回る欠点があった。消費税減税は国内総生産(GDP)の5割超を占める個人消費を直接刺激でき、消費喚起が見込める。

 消費税減税は絵空事だろうか。2019年10月の税率8%から10%への引き上げで見込まれる増収効果は軽減税率の影響を差し引き年間4兆6000億円。仮に半年間、税率を8%に戻せば2兆3000億円分の減収だ。

 ただ、コロナ対策ではすでに使途を限定しない予備費を11兆5000億円も計上した。被災事業者を支援する政府の「Go To キャンペーン」の予算(1兆7000億円)と比べても、消費税減税による税収減は耐えられない規模ではない。

 実際、欧州各国はコロナ禍で日本の消費税に当たる付加価値税を相次いで減税した。英国は飲食や宿泊など打撃の大きい業種を対象に税率を20%から5%に引き下げ、財政規律に厳格なドイツも税率を19%から16%、食料品などの軽減税率は7%から5%にした。いずれも半年以上の時限措置で、消費の起爆剤にしたい狙いがある。

 自民党内で消費税減税に対する期待感が根強い背景には「日本も乗り遅れてはならない」(若手議員)との焦燥感もある。

                  ◇

 ■安倍政権の“遺産” 衆院選争点化も

 菅義偉首相は、自民党総裁選に立候補表明後の今月5日、民放番組で消費税減税の是非を問われ、「社会保障の貴重な財源」と慎重な姿勢を示した。一部にあった新政権による減税への期待はしぼんだ。一方で菅首相は消費税の増税についても「10年は必要ない」と話す。胸の内は読めない。

 確かに消費税法第1条に税収は年金や医療、介護、少子化対策の経費に充てると明記されている。10%への引き上げによる増収分は幼児教育・保育の無償化や年金生活者への給付金などに使用され、減税すれば身近な社会保障事業が削られるのではとの不安もよぎる。

 とはいえ消費税収の2%に当たる5兆円強は政府の債務返済に充てられ、この部分を使えば社会保障財政に穴を開けずに減税できるのも事実。社会保障の財源としての重要性を強調するのは、一度下げると再増税が難しいとの懸念から減税を避けるための口実にも聞こえる。

 首相として2度消費税を増税した安倍晋三氏も本心では必ずしも増税に積極的ではなかったとされ、10%への引き上げは2度延期した。増税方針自体は民主党政権下で与野党3党がまとめた「社会保障と税の一体改革」関連法で定められていたものだ。

 この政権交代前の“遺産”に縛られ、2014年4月に消費税率が8%に上げられた後、安倍政権前半に日本銀行の大胆な金融緩和で勢いづいた景気は失速した。消費税増税が「アベノミクスの成果を台無しにした」とも指摘される。消費税増税に対する世間の強いアレルギーを考慮すると、“失策”挽回の減税を掲げれば選挙戦の目玉公約になりそうだ。野党は既に消費税の減税や廃止を打ち出しており、近く見込まれる衆院解散・総選挙でも主要な争点の一つになる。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus