専欄

中国で日本企業の撤退は加速するのか

 日本政府は今年春、「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」政策を打ち出した。これに呼応して中国に進出している日本企業から、補助金応募が殺到している。米中経済摩擦や新型コロナウイルスの発生に嫌気が差して、中国からの日本企業撤退が加速していくのだろうか。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)

 先行締め切りでは57件、約574億円が採択された。さらに第2次では1670件、約1兆7640億円分の申請があった。予備費による追加措置があったものの、残りの予算額に対し約7倍もの応募額である。日本政府は来年度も予算継続していく考えという。これらの申請の中には、中小企業だけでなく、名の知れた大企業もいくつか含まれている。

 こうした動きに、中国側は神経をとがらせている。人民網日本語版は、コロナ対策の補正予算に占める割合から見れば、補助金の規模は微々たるものであるし、現在中国に進出している約3万5000社もの日系企業数からみても、申請企業数は5%にも満たない、と強調している。また、製造業の労働集約型産業が中心なので、影響は少ないとも指摘している。

 実際にはどうか。中国当局の発表によると、今年上半期の世界からの直接投資受け入れ額は、元建てで前年同期比1.3%減となっている。新型コロナの影響が出ているが、それでも後半になるにつれて回復基調がみられ、とりわけ6月は増加に転じている。日本の対中投資についても、同じような傾向にあるとみられる。

 日本企業の中には、さまざまな問題はあっても、中国の巨大な国内市場は捨てきれない、というところがある。その代表は自動車だ。9月末から行われた北京モーターショーでは、日本の主力メーカーも電気自動車(EV)など最先端の技術を駆使した新型車を出品し、今後の市場展開に意欲をみせている。

 もっとも米中経済摩擦は今後も長引くと予想されるし、中国の市場開放が不十分な点も依然として指摘されている。中国政府の強圧的な周辺外交にも強い懸念が残る。日本貿易振興機構(ジェトロ)の「進出日系企業実態調査(2019年8~9月実施)」をみても、今後1~2年の中国事業展開の方向性について、「拡大」と回答した企業の比率は下落している。

 日本企業は、米中経済摩擦などによる投資環境の悪化を嫌気するか、あるいは巨大市場の需要増に望みを託すか、難しい判断を迫られ、二分化の傾向を強めていくことになりそうだ。

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