真山仁の穿った眼

日本シリーズで見えた“完成した人材”不信 (1/3ページ)

真山仁
真山仁

目利き力と指導力の差

 大阪生まれの大阪育ちでありながら、50年以上も巨人ファンの私にとって、今年のプロ野球日本シリーズは、悔しさを感じないほど落胆した。2年連続で4連敗を喫したからではない。全く異次元のレベル差を、思い知らされたためだ。

 今年のパ・リーグは、ギリギリまで優勝争いが混沌としていた。4位までが最後まで可能性を残していた中で、ラストスパートをかけたソフトバンクがリーグ優勝を飾り、クライマックスシリーズ(CS)も2戦連続の逆転勝利で、パ・リーグの代表となった。

 一方のセ・リーグは、リーグ戦中盤から巨人が独走。他を圧倒しての優勝だった。

 日本シリーズの敗因として、巨人のホーム球場の東京ドームが、都市対抗野球大会で利用できなかったことや、CSがなかったために、勢いが削がれた状態で日本シリーズを迎えたなど、さまざまな指摘があった。

 だが、そんな問題ではない。あれは、野球の質の違いであり、巨人が覇者となったセ・リーグが滅亡に瀕(ひん)した帝国だとすれば、ソフトバンクは、先進国を打ち破った覇権国家だと言いたくなるほど、進化に差があった。

 あれが、パ・リーグで僅差で勝ち上がってきた球団なのであれば、ソフトバンクだけが強いのではなく、パ・リーグ全体が、セ・リーグを完全に凌駕(りょうが)していると認めざるを得ない。

 尤(もっと)も、今回の主題は、プロ野球のセパの格差に対する考察ではない。

 両チームの野球の質と選手のプロフィールを眺めていて、「もしかすると、ソフトバンクのチーム運営における思想には、閉塞感がある日本企業の人事制度を見直すヒントがあるのではないか」と思い当たったのだ。

 ソフトバンクは、実績を残した選手が、自らチームを選ぶ制度であるフリーエージェント(FA)に拠る大物選手の獲得などに頼らず、才能のある“金の卵”を見つけ出した上で、徹底的に鍛えて才能を伸ばして結果を出している。

 つまり、若手の育成法に長じているというのが、スポーツ紙などが指摘している専門家の評価だ。

 だが、私が注目したのは、その目利き力と指導力だ。

 ソフトバンクの打者は、フォームからして個性的だ。教科書が教えるようなフォームで構える選手が珍しい。兎(と)に角、フルスイングをする。打順に関係なくその姿勢は、変わらない。フルスイングするから、打球に破壊力があるため、平凡そうに見えるゴロやフライでも、正確な守備をしなければ、エラーを誘う。ましてやホームランなら、大砲から放たれたような勢いでスタンドに吸い込まれていく。

 通常、そういう打者は、長打力はあっても打率が低いため、一年を通じての成績は安定しない。だから、プロ野球の野手のスタイルとしては、推奨されてこなかった。

 ところが、ソフトバンクでは、そういうタイプが主流であり、彼らが結果を出して、巨人を圧倒した。

 一方、投手陣は、エースでなくても、直球の球速が軽く150キロを超える選手ばかりで、さらに各自が磨きを掛けた変化球を持っている。

 尤も、従来から球速があるだけでは、強打者は抑えられないと考えられていた。プロ野球選手なら、160キロの直球でもホームランを放てる技倆(ぎりょう)があるためだ。

 しかし、ソフトバンクの投手の球は、速いだけではない。重いのだ。だから、芯でボールを捉(とら)えても、バットがへし折られてしまうようなことも起きる。

 打者も投手も、とにかく力強く、全身を使って力を振り絞っている。

 それに比べて巨人の選手の多くは、オーソドックスな完成度の高い野球に終始するため、観客から見ると、「力負けしている」ように見えてしまう。

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