論風

成長フロンティアへの挑戦の年 コロナ克服し新経済秩序を

地球産業文化研究所顧問・福川伸次

 新型コロナウイルスは欧米、そして日本でも第3波ともいえる拡大をみせ、感染国の多くは、いまだに手探りでロックダウン(都市封鎖)政策と経済拡大策の選択に苦悩している。われわれは、まず「新常態」を実現したうえで、長期の観点に立って成長の新路を探求しなければならない。

 国際医療協力の改革

 第1に、ロックダウン政策と成長促進策の最適適合の方途を見いだす必要がある。フランス、イタリア、英国など経済拡大策に早期に移行した国は、再びロックダウン政策に戻った。日本でも「Go To トラベル」「Go To イート」政策などの修正を迫られた。関係国は、手探り状態で対応を余儀なくされているが、政策の積極面と消極面の効果や経験をできるだけ共有し、政策方向と適用時期の最適化を探らなければならない。

 そこで有力な手段がデジタル・トランスフォーメーション(DX)化である。すでに主要企業は経営に大幅にデジタル技術を導入し、在宅勤務などを通じ人の接触を極力軽減する努力を続けている。オンライン教育やデジタル・イベントを進めているものもある。

 第2は、国際医療協力の強化である。WHOは、感染源の特定にも、医療協力にも十分な機能を果し得なかった。WHOは、病原に関する情報を公開し、国境を越えてワクチンと治療薬開発の協力体制の整備を期待したい。

 同時に、医療関係貿易の基盤充実を図る必要がある。これは国際医療協力の基礎である。21世紀の19年間に世界全体の医薬品の輸出は6.3倍に、医療機械・器具は4.3倍になった。全商品の貿易の伸びが約3倍であるので、医療関係貿易が人類に貢献しているということができる。

 その中で、医薬品輸出のトップはドイツ、2位は米国、医療機械・器具輸出のトップは米国、2位はドイツである。伸び率でみると中国が顕著で、医薬品で9.7倍、医療機械・器具で23倍にもなっている。ところが、日本は水準も伸び率も際立って低い。その原因は政府の医療行政であろうか、関係企業の活動停滞であろうか。医療貿易は、人類の福祉に貢献する。日本は医療物資のサプライチェーン(供給網)の整備と貿易拡大の政策強化と企業展開に努力を傾注する必要がある。

 第3は、経済不況を克服する政策協力である。コロナ不況は、2008年のリーマン・ショックを上回る深刻なものとなる。IMFは昨年の世界経済の成長率をマイナス4.4%と予想する。関係国は、コロナ不況を乗り越えるため、財政支出の増大を進めており、財政構造が押しなべて悪化する。IMFは、20年の国家債務の対国内総生産(GDP)比率が125%に達し、第二次世界大戦直後の状況よりも悪化するとみる。日本の財政構造の悪化は特に顕著だ。感染が著しいインド、ブラジルなどは失業の増加、通貨不安などに悩んでいる。主要国の経済運営安定への協力は必須である。

 着眼大局、着手小局

 第4は、構造的観点に立って「質の高い経済」を実現することである。それには、地球環境の改善を図りつつ、イノベーション力を充実し、付加価値率の高い経済を実現する必要がある。最近の温度上昇は顕著で、世界各地に熱波、台風、森林火災などで大きな被害をもたらしている。新たな感染症の発生も危惧される。日本は50年にカーボン・ニュートラル政策を打ち出している。その実現は容易ではないが、関係方面を挙げて取り組む必要がある。同時に付加価値を高めるために、人工知能(AI)やデータ機能を活用しつつ、高度技術を開発し、文理離融合を加速し、創知的、文化的な価値を高めなければならない。

 日本は、残念ながらこうしたフロンティアに挑戦する意欲と能力に欠けている。「着眼大局、着手小局」の心をもって「質の高い経済」に挑戦する必要がある。

【プロフィル】福川伸次

 ふくかわ・しんじ 東大法卒、1955年通商産業省(現経済産業省)入省。86年通産事務次官。88年退官後、神戸製鋼所副社長、副会長、電通総研社長兼研究所長を経て、2005年から機械産業記念事業財団会長、12年4月から現職。東京都出身。

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