国内

「またクラスター起きるのでは…」介護施設に拭えぬ恐怖 

 新型コロナウイルス感染拡大を受け、全国の介護施設や高齢者施設でクラスター(感染者集団)の発生が相次いでいる。ただ入所者が寝食を共にしたり、職員の介助が必要だったりするケースが多く、対人距離の確保といった一般的な対策を取ることは困難だ。一度クラスターが発生すれば、何が起き、どんな支援が必要なのか。昨年夏、クラスターに直面し、入所者・職員の計36人が感染した大阪府内の介護老人福祉施設の男性事務長が取材に応じ、当時を振り返った。(鈴木俊輔)

 入り込むウイルス

 異変は昨年8月11日夜に起きた。認知症患者が入所するフロアで、80代女性の発熱が発覚。翌日には同じフロアで他の3人が相次ぎ発熱した。

 当時、国内は「第2波」の真っただ中。大阪府でも連日100人以上の新規感染者が確認されていた。「常にコロナは意識していたが、まさか自分のところで、という思いだった」(事務長)。

 対策は徹底したつもりだ。感染者発生に備えてマニュアルを整え、入所者との面会も制限した。入所者、職員の体調管理や施設内の消毒にも気を配ったが、それでもウイルスは人知れず入り込んでいた。

 施設での感染者は日を追うごとに増え、1週間余りで20人を超えた。職員やその家族にも感染が拡大。感染していない職員の中には、帰宅せずにホテルや近隣の集合住宅で寝泊まりする人もいた。

 府内で感染者が急増する中、入所者の入院先はなかなか見つからない。入院できたとしても、認知症のため院内の「ゾーニング」(区域分け)を守ることができず、施設に戻ってきた人もいた。

 恐怖は今も

 クラスターが起きたとして施設名が報道されると、心ない批判や抗議の声も届いた。全員の心身が疲弊する中、無言電話を受けたこともある。「全員が陽性になるまで、収束しないのではないか」。事務長の頭には当時、そんな思いがよぎったという。

 事態が落ち着いたのは同9月末。最終的な感染者は入所者と職員を合わせ、計36人に上った。重症化するまで入院できなかった入所者もいた。

 このうち10人は感染発覚から回復まで施設で過ごすことを余儀なくされた。

 クラスターの経験を踏まえ、事務長は訴える。「入所者は食事や排せつに介助が必要で、ホテルなどに隔離はできない。早期に入院できる態勢が必要だ」。感染の「第3波」が広がる中、「またクラスターが起きるのではないか」という恐怖は、今も拭えていないという。

 医療崩壊につながる

 クラスターが発生した施設で支援を続ける国際協力NGO「ピースウィンズ・ジャパン」の坂田大三医師は、高齢者施設や介護施設でのクラスター対応をこう例える。「闘い方も分からず、武器もないままで戦場になった状態だ」

 施設の入所者は食事や排せつが一人でできず、職員らのサポートを必要とするケースが多い。そのため、一般社会で求められるソーシャルディスタンスの徹底は、そもそも困難な状況といえる。一人でも感染者が出れば、感染が一気に広がるリスクがある。

 医療体制が行き詰まる中、医師や感染症の専門家から助言を受けられず、対応を迫られるケースもある。消毒用のアルコールやマスクなどが、十分に手に入らない状況にも留意が必要だ。

 同団体の調査では、施設の多くが物資面での支援を求めていた。手袋など一部の資材は品薄から価格が高騰し、小規模施設では入手が困難な状況もある。坂田医師は「入所者は重症化のリスクが高いことが多い。適切に対応しなければ、重症者が一気に増え、医療崩壊につながる」と警鐘を鳴らす。

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