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インド・チェンナイ、「洪水と水不足」両極端の被害 拙劣な都市計画あだ

 インド南部のチェンナイが洪水と水不足という両極端の被害に見舞われている。工業化と都市化に異常気象が加わった場合や大都市で住宅や工場、オフィス需要に応え、洪水時に流水に覆われる氾濫原を舗装した場合に、どのような弊害が起きるか、チェンナイがそのケーススタディーになる。

 氾濫原が広域で縮小

 インド第6の都市チェンナイの年間平均降雨量は、ロンドンの2倍以上、ロサンゼルスの4倍近い約1400ミリ。だが2019年、人口1100万人のチェンナイは市内の主要水源が全て干上がり、渇水に見舞われた。市の給水車には市民が数時間待ちの列を作った。

 また、今年はチェンナイを州都とするタミル・ナードゥ州で1月の降雨量は例年の10倍を超えた。年間降雨量の90%近くをもたらす北東の季節風は公式には12月で終わるとされるが、1月に入っても激しい雨が続いた。

 チェンナイはインド南東海岸の海抜の低い平原に位置し、汚染の激しい3本の大きな河川がベンガル湾に注ぐ。何世紀にもわたり近隣や極東をつなぐ貿易拠点、さらに南インドへの玄関口として栄え、これが無計画に広がる大都市圏を形成した。

 気候変動や異常気象の影響もあるものの、チェンナイの水に関する苦難の主たる原因は都市計画のまずさにある。都市部の拡大に伴い、湖や池だけでなく氾濫原も広大な範囲で姿を消した。アンナ大学の研究者によると、1893年に12.6平方キロメートルあった市内の湖や池などの面積は、2017年には約3.2平方キロメートルに縮小。縮小例のほとんどは、230平方キロメートルの湿地帯が失われた08年のチェンナイITコリドーの建設など、数十年内のものだ。

 雨をため込む場所が減り、洪水の件数も増加し、15年にチェンナイはここ100年で最大の水害に襲われた。北東の季節風による1日の降雨量は494ミリに達し、犠牲者は400人以上、家を失った人は180万人に上った。だが、その4年後の19年にはチェンナイは深刻な渇水に見舞われた。

 州は気象変動に対する行動計画で「年間平均気温は2100年までに1970年~2000年の水準から3.1度上昇する。年間降水量は9%近く減少し、貯水量を保ち作物の成長に必要な安定的な降雨をもたらす南西の季節風が吹く6~9月に顕著に減少する。一方で洪水を引き起こすサイクロンの季節である冬場の気象は激化する」と予測する。

 チェンナイ拠点の非営利団体のインド環境活動基金の創立者、アルン・クリシュナマーシー氏は「チェンナイは世界中の人口が急増する都市が抱える課題の極端な例を示している。深刻な水不足は世界的な問題で協力が必要だ。ブラジルのサンパウロや北京など直面する都市は増えている」と話す。

 数百の貯水池を建設

 タミル・ナードゥ州のエダッパディ・K・ポラニスワミ首相は19年の渇水の後、多くの女性を巻き込み雨水集積や節水、再利用、水源の環境保護などを進めるプログラムに加え、河川の汚染改善の研究を行うと発表した。それまでの州政府による対策は、巨大脱塩プラント建設が中心で、コストが高い上、環境へのダメージや地元漁業への影響に非難が高まっていた。

 州政府は現在、オランダやアジアインフラ投資銀行(AIIB)の支援で、古代人が寺の周囲に作った貯水池のいくつかを修復し、同様の貯水池を数百建設するプロジェクトを推進。自然豊かな傾斜地も市内一円に設け、豪雨の際の雨水を吸収・濾過(ろか)し地下水を補充、乾期に備えて貯水する。

 プロジェクトに参加する建築設計事務所マドラステラス・アーキテクチュアル・ワークスのディレクター、スディーンドラNK氏は「洪水と干魃(かんばつ)、衛生は相互に関連している。一定数以上の人がこの3つに取り組めば、大きな変化が生じ、危機を脱することができる。プロジェクトの効果が出るまでには少なくとも5年はかかる」と指摘する。(Bloomberg News)

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