海外情勢

インド、記録デジタル化で土地収用問題に大なた インフラ投資誘致

 インドで長年、インフラ投資を阻んできた土地収用問題の解消に向けて、政府の諮問機関である政策委員会が新たなモデルとなる法案を起草した。植民地時代に制定された従来法に替わって、憲法上土地を管轄する州政府に全ての土地記録のデジタル化を命じ、その記録を地権者の詳細とひも付ける。また、土地収用絡みで決着していない全ての案件を3年以内に裁く機関を設置する。

 法案を起草した委員会の責任者、ヴィノド・アグラワル氏は「このシステムが導入されれば楽になるだろう」と述べた。オーストラリアや英国、韓国やタイなど80カ国以上で同様の土地所有権に関するシステムが導入されているという。

 直接取引で汚職抑制

 今回の土地問題の改革を推進してきた当局者の一人である土地資産庁のフクム・シン・ミーナ副次官は、正しく実施されれば土地の所有権が明白になるほか、オンラインでの土地取引が可能になり、所有者が銀行の与信枠を活用しやすくなると説明。ただ、現行のデジタルインフラが新システムを処理できるかどうかなど、大きなハードルは残るとしている。取材に対して同副次官は「非常に慎重に動いている。大変革となるか、悲惨な状況に陥るか、全てはどう実行に移すか次第だ」と話した。

 国家の基本的なICT(情報通信技術)政策「デジタル・インディア」の土地記録近代化計画のダッシュボード(データを表で可視化したもの)では、農村部の90.1%の土地記録が電子化されている。だが記録の多くは正しく更新されておらず、投資家が土地を取得する際には複数の当事者と取引せざるを得ない。賄賂の要求も頻繁にある。

 新法では州政府に土地記録と地権者のデジタルIDのひも付けを求めるほか、投資家による地権者との直接取引を認める。仲介業者や下位レベルの官僚を排し、取引の遅延や汚職を減らす狙いがある。

 世界銀行は裁判所で係争中の事案の約3分の2が土地絡みと見込んでいる。調査グループ、ランド・コンフリクト・ウオッチはインドで約800件の係争が730万人に影響を及ぼし、イスラエルの国土を上回る面積の土地への2000億ドル(約21兆円)を超える投資を脅かしていると見積もる。

 ムンバイメトロ建設事業は最も著名な紛争の一つだ。列車の客車収納庫の設置場所をめぐる40年もの土地紛争が、都市の混雑を解消して42億ドル相当の投資をもたらす可能性のある近代的な地下鉄システムの構築を妨げてきた。

 土地問題で棚上げされたり却下されたりした大規模なインフラプロジェクトはこれにとどまらない。170億ドル規模の新幹線、120億ドル規模の鉄鋼プロジェクト、700件超の道路建設プロジェクトなどが長年にわたる土地収用問題の犠牲となった。

 中国から供給網奪う

 民間非営利団体(NPO)のRRIによると、土地をめぐる紛争はセメントや鉄鋼、工業、エネルギー部門全体の投資も停滞させている。韓国の鉄鋼最大手ポスコは、地元での紛争と土地リース契約の問題で計画に10年の遅れが生じ、2017年に120億ドル規模の鉄鋼複合企業の計画を打ち切った。

 モディ首相は現在、国内製造業を後押しして数百万人の雇用を創出するために、土地収用問題を解消し、投資を促そうとしている。1952年以来で最大のマイナス成長に陥る見通しの経済を浮揚するためだ。こうした動きは企業を説得して中国からサプライチェーン(供給網)を奪取し、インドに設置しようというモディ政権の取り組みを後押しする可能性もある。

 モディ首相率いる政権与党のインド人民党(BJP)は議会の過半数を握っており、連邦法を可決するのは容易だ。だがその成否はモデル法案に基づく法律を採用する必要のある各州の指導者ら次第となる。モディ政権は昨年9月に農業取引の自由化をめぐる改正法を施行したが、これに抗議する数千人規模の農民デモが勃発した経緯もあり、全てが順調に進むとは限らない。(ブルームバーグ Archana Chaudhary、Bibhudatta Pradhan)

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