海外情勢

中国の台湾侵攻の「手本」 ウクライナで試される米政権

 【ワシントン=黒瀬悦成】サキ米大統領報道官は12日の記者会見で、ロシアがウクライナとの国境地帯やロシアの実効支配下にあるウクライナ南部クリミア半島で軍部隊を増強させている事態を「懸念する」と述べた。米安全保障関係者の間では、ロシアのクリミア半島併合やウクライナ東部での軍事行動について、中国が将来の台湾侵攻や尖閣諸島(沖縄県石垣市)占領に向けた参考事例にしているとみられており、バイデン米政権は決然とした対応を迫られている。

 サキ氏は、ロシア軍の行動を「侵略行為だ」と明言した上で、今週ブリュッセルを訪問するブリンケン国務長官およびオースティン国防長官が北大西洋条約機構(NATO)加盟国との協議で議題として取り上げることを明らかにした。

 先進7カ国(G7)外相も12日に共同声明を発表し、ロシア軍部隊の増強は「脅迫的で(情勢を)不安定化させる行為だ」とし、「ロシアは挑発行為をやめ、直ちに緊張状態を緩和すべきだ」と訴えた。

 声明は「ウクライナの独立と主権、領土保全への揺るぎない支持を改めて確認する」とも強調した。

 ロシアの行動をめぐっては、「インド太平洋地域重視」を打ち出すバイデン政権が、ウクライナ支援や欧州安保にでどこまで関与を深めてくるかを試す狙いがあるとみられている。

 一方、中国は2014年のロシアによるクリミア侵攻で当時のオバマ米政権を含む国際社会がロシアの行動阻止に向けて積極的に動かなかったことに着目し、国際社会との全面衝突を避けつつ台湾統一や尖閣諸島の占領、南シナ海での覇権確立の方策を探る先例にしているとの見方が強い。

 特に中国が重視するのは、軍事的威圧に加え、外交やソーシャルメディアを駆使した情報心理戦、サイバー攻撃などといった複合的な手段で相手国を揺さぶり、なし崩し的に戦略目標を達成する「ハイブリッド戦争」の手法だ。

 米軍関係者は「中国による台湾侵攻のシナリオは、ロシアのクリミアでのハイブリッド戦争に影響を受けている」と指摘する。それだけに、バイデン政権が最近のロシアの動きに有効な対抗措置を取れなければ、ロシアだけでなく中国に対しても誤ったシグナルを送る危険が極めて高い。

 リーカー米国務次官補代行(欧州・ユーラシア担当)は12日の電話記者会見で、「ロシアが無謀かつ攻撃的な行動を取れば代償を払うことになる」と強く警告した。

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