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96%は国内生産なのに「卵の自給率は10%」と農水省が主張するカラクリ (2/2ページ)

 ■「自給率の低さ」を強調したい

 農林水産省が供給熱量ベースの自給率を公表し始めた1983年といえば、日米貿易摩擦を背景に米国から農産物輸入の自由化が強く求められていた時期です。「外国の安い農産物が大量に輸入されれば、日本の農業は崩壊、食料自給率はさらに低下、国際情勢によって飢餓が訪れる!」と国民の不安感に訴えるには、「今でも自給率はこんなに低い」というアナウンスが必要だったのでしょう。

 考えてみると、もし海外からの輸入が完全にストップすると、自給率の分子(国内生産)と分母(総供給)は同じになって、食料自給率は100%です。もちろんそれは望ましい状態ではありません。「食の安全保障」という観点から考えるならば、むしろ安定的な食料輸入を可能にする国際関係の確立を図るべきだし、日本農業の振興という観点からは高品質で競争力の高い野菜や果実などの輸出を拡大すべきでしょう。

 国産農産物にこだわって「食料自給率をできるだけ高めなければならない」という政策目標は、必ずしも正しいとはいえないのではないでしょうか。

 参考:『日本は世界5位の農業大国』浅川芳裕(講談社)

 ■外国産の卵をスーパーで見ない理由

 ところで、先ほどのグラフで品目別に自給率の推移を見ると、さまざまな背景が読み取れます。

 たとえば、今も自給率96%を維持する鶏卵。新鮮さを求められるが卵自体の冷凍はできず、割れないように長距離輸送するのも困難です。そのような品目の特性上、あまり貿易には向いていませんね。だからほとんどが国産なのですが、それでも4%は輸入です。

 「価格の優等生」である卵は、スーパーの特売品になることが多いのですが、外国産の卵が売り場に並んでいるのは見たことがありません。実は、殻を除いて冷凍した「液卵」、乾燥させた「粉卵」などの加工品として、菓子の原料、外食産業などの業務用に輸入されているのです。

 ■進む養鶏農家の集約化と大規模化

 ちなみに、卵を産む鶏(採卵鶏)の飼養をする国内の養鶏農家の戸数は年々減っており、全国で2000戸程度にすぎませんが、残った農家は飼養羽数の大規模化が著しく、10万羽以上を飼う大規模養鶏場も珍しくありません。そのような大規模養鶏場だけで、全国の飼養羽数の75%を占めています。肉用のブロイラーでも同様の傾向になっています。

 いずれにせよ、飼料の大半はおもに米国から輸入するとうもろこしなどです。これを考慮に入れると、卵の自給率は10%程度になってしまいます。

 ■「国産野菜」にこだわる意味

 鮮度を要求される点では、野菜も鶏卵と同じです。それでも、ほぼ100%だった野菜類の自給率は1980年代から徐々に低下して、現在は77%。多くは冷凍野菜などの加工品ですが、輸送機関・流通の整備によって輸入が可能になってきたことをうかがわせます。

 中国では、国内の大都市圏にも日本にも近い沿海部の山東(シャントン)省などで野菜の生産・輸出に力を入れています。ところが2002年には、中国産ほうれんそうの残留農薬が問題となり、その安全性に疑問が投げかけられました。ほうれんそうの中国からの輸入量は激減し、その後も回復できていません。その頃から、外食産業や加工食品に「国産野菜を使用しています」というフレーズを頻繁(ひんぱん)に見かけるようになりました。

 しかし、ほうれんそうはともかく、今も中国産を中心に野菜全体の輸入は増加しています。この間の飛躍的な経済成長を背景に、中国みずからの国内において都市住民を中心に安全な食品を求める要請が高まりました。法規制の強化などによって、中国農業の安全管理体制の確立は一定程度進んでいるようです。

 たまにスーパーで見かける中国産野菜は、大規模生産と安い人件費のおかげで国産野菜に比べてたしかに激安です。とはいえ、あの農薬騒動の記憶が残る日本の消費者としては、値段の魅力だけではなかなか手に取れません。そのため、加工用などに回される割合が高いようですから、結局どこかで口にしているのでしょう。

 国産にこだわる人も知っておきたいのは、日本も耕地面積当たり農薬使用量が世界トップクラスの農薬大国だということ。最近では、発がん性が疑われる除草剤グリホサートや、生態系への影響が指摘されるネオニコチノイド系農薬などについて、使用禁止に向かう欧州連合(EU)などの潮流に逆行して日本では規制が緩和されています。国産=安全は本当でしょうか。

 

 山岡 信幸(やまおか・のぶゆき)

 東進ハイスクール講師

 図解と統計の解説がわかりやすいと受験生の支持を集める。著書『山岡の地理B 教室』は地理受験参考書のロングセラー。

 

 (東進ハイスクール講師 山岡 信幸)(PRESIDENT Online)

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