海外情勢

「ついにサムスンもストライキ」大企業に見限られた韓国・文政権の崖っぷち (2/2ページ)

 ■これまで労働争議と距離を置いてきたが…

 近年、韓国の自動車産業で労使対立が鮮明だ。賃上げなどを声高に求める現代自動車やルノーサムスン自動車などの労働組合は、バンドワゴンになぞらえられる。その姿に感化されるようにして労働争議と距離をとってきたサムスン・ディスプレイの労働組合は、ストライキは待遇改善を求める有効かつ重要な手段との考えに傾斜した可能性がある。

 それが韓国経済に与えるインパクトは大きいだろう。朝鮮動乱の後、韓国政府はわが国からの資金および技術支援を取りつけ、それをサムスン電子などの財閥系企業に定着させることを重視した。それが、1960年代後半以降の“漢江の奇跡”と呼ばれる高い経済成長を支えた。

 1997年に発生したアジア通貨危機の後は大宇財閥などが解体され、一部事業が海外企業などに買収された。米GMは中国への輸出拠点として、また5000万人規模の人口がもたらす需要に着目して大宇の自動車事業を買収した。

 しかし、ここにきてGM幹部からも労働争議を繰り返す労組への不信感が示されている。韓国経済を支えてきたサムスングループ内でのストライキ発生もあり、成長基盤には不安定化の兆しが出始めていると解釈できる。

 ■クーパン創業者が海外事業に舵を切った意味

 一部の報道では、サムスングループ内ではストライキが他のグループ企業に波及しないか警戒感が高まっているようだ。ということは、今後、労使の対立が先鋭化し、事業運営に支障が生じるのではないかと身構える企業経営者は増えつつあるとみて問題ないだろう。今すぐ韓国において労働争議が激化し事業運営に深刻な影響が出る展開は想定しづらいが、中長期的な時間軸で考えると徐々に労使対立が熱を帯びる可能性は排除できない。

 そうした展開を警戒する企業家は増えていると考えられる。クーパンを創業したキム・ボムソク氏は韓国事業のすべての役職を辞し、海外事業の運営に注力する。同社が韓国事業で収益を得ていることを踏まえると、キム氏の危機感はかなり強いようだ。その危機感は、既存の経営資源を海外事業に再配分して韓国事業のウェイトを引き下げなければ、労使対立などによって環境変化への適応が難しくなるという、ある種の強迫観念と言ってもよいだろう。

 そうした心理がクーパンの日本進出に与えた影響は小さくないはずだ。経済のデジタル化に遅れるわが国での生鮮食品などの高速物流網の確立は、クーパンが海外事業を強化する上で“渡りに船”と映った可能性がある。

 ■“失策”の影響は深刻だ

 一国の経済の成長には、先端分野での成長を目指す企業(企業家)の存在と、サプライヤーや人材、一定の需要の存在が必要だ。それが、国際競争力を持つ企業の集積を支え、その上で政府の国際世論に対する発言力も高まる。

 しかし、文大統領は、目先の支持獲得を重視し、ある意味では労働組合に忖度して経済政策を進めたように見える。その結果、労使の対立は深刻化し、企業家心理は停滞しつつある可能性がある。韓国では出生率の低下も深刻であり、需要は縮小均衡に向かっている。

 それに上乗せするようにサムスン電子などでも労使の対立が鮮明となれば、世界経済における韓国の競争力や発言力には無視できない影響があるだろう。やや長めの目線で今後の韓国経済の展開を考えると、文氏の経済政策は企業のダイナミズムを低下させ、経済の実力=潜在成長率を下押しする恐れがある。

 

 真壁 昭夫(まかべ・あきお)

 法政大学大学院 教授

 1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

 

 (法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)(PRESIDENT Online)

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