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「国の補助金が日本の山をダメにした」高級木材を燃料にする“再エネ発電”の大問題 (2/2ページ)

 ■高品質の木材も、安価な再エネ燃料に……

 先ほど説明したとおり、木の単価は、家具や建築用材が一番高く、次第に下がっていく。粉々にする木が一番安い。刺身でも十分に美味しい魚を、濃い味付けが必要なアラ同等の安い値段で叩き売っていることになる。

 せっかくの建築用材を粉々にする燃料として叩き売れば、一時的に現金は稼げるかもしれない、建築用材の需要がないからという人もいる。しかし、それでは今を凌(しの)げたとして、山林も山村も疲弊に向かい、将来への持続性は得られない。

 用材となる木は、植えるにも、育てるにも、伐り出すにも技能がいる。きちんと用材として売れれば、育てた技術や山林にも正当な対価が払われる。山の麓に住む人々の仕事と家族の生活が守られる。それで次の世代の木を山に植えることができる。このサイクルが回れば、林業や製材業が将来へと発展していく。

 しかしバイオマスに使う木は粉々にするのだから、質は問わず、取引価格は安い。バイオマス利用だけでは、再造林などあり得ない。どこの木を、どう伐り出そうと、コストが安いのが一番。このような価格帯の低い木ばかりの流通量が増えれば、木材価格全体が下がり始める。

 さらに立木を植えて育てて収穫する技能まで損なわれ、山林の作り方がおぼつかなくなる。国土保全の劣化も心配される。

 ■再エネ補助金で、日本の森がダメになる

 本来は高い値段のはずの建築用材をエネルギー利用に回していたらお金にならないだろう、と思うかもしれない。しかし山から木を伐り出す仕事に補助金が下り、売る際にはFIT(フィット)をもとにした金額が支払われる。

 FITとはFeed-In Tariffの頭文字を取ったもので、エネルギーの固定価格買取制度を意味する。再生可能エネルギーで発電した電力を、電力会社が一定の値段で買い取ることを定めたもので、バイオマス発電から得られる電力も対象となる。日本では電力会社が買い取る費用を、われわれ消費者が「再エネ賦課金」として負担している。

 最近、山林所有者になった方が「1年に7000万円の補助金をもらい、伐った木の多くをバイオマスのプラントに運んでいる」と言っていた。A材やB材の売り方も知らず、売り先も持たないようだった。これでは補助金を使った資源の切り売りに近い。

 政策に関わる人の中にも、この問題点に気づいている人がいる。

 「上(上司・上層部)の頭には、製材業について大規模集約化しかない。しかし中小の製材業が大事だ。あなたの口から言ってくれ」

 こう言われたこともある。政策も分かりやすい数値が取れる方に動く傾向があるため、どうしても大規模化を是とする傾向があるのだ。外からの「新しい」事業に傾倒し、昔からの「古い」事業の発展を蔑(ないがし)ろにするのは、日本的であるとも思う。

 「新しい」事業は、予算も取りやすい。CLTもバイオマスも、日本林業にとっては外から来た「新しい」事業である。持続性を得ようとするならば、どちらも必要で、共存できるよう制度を工夫することが求められる。

 そして、むしろ外からではなく内から、みずから成長する産業に持続的な将来性がある。外からすげ替えたところで、一時を凌いだだけになりかねない。「これまで」の積み重ねを軽視せず、粘り強く明日へと成長させることが重要だ。

 

 白井 裕子(しらい・ゆうこ)

 慶應義塾大学准教授

 慶應義塾大学准教授。早稲田大学理工学部建築学科卒。稲門建築会賞受賞。ドイツ・バウハウス大学に留学。早稲田大学大学院修士課程修了。株式会社野村総合研究所研究員、早稲田大学理工学術院客員教授などをつとめる。工学博士。一級建築士。著書に『森林の崩壊』。

 

 (慶應義塾大学准教授 白井 裕子)(PRESIDENT Online)

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