海外情勢

「卒業生の4割は無職だが…」中国政府が“起業学部ライバー養成学科”に力を入れるワケ (2/3ページ)

 ■フリーランスの概念がようやく浸透してきた

 このシステムからは、末端の労働者を含む、多くの国民を安定的に就業させなければならないという国家としての使命が感じられるが、逆に言えば、就業体系の崩れは国家安定の基盤に影響する。そのため、職業もまた中国政府によって徹底した管理が行われているというわけだ。ちなみに改革開放前の中国都市部は、労働者の誰もが政府系や公営の勤務先に所属しており、フリーランサーという概念などなかった時代だった。

 筆者が中国を初めて訪れた90年代初期は、フリーライターという身分さえもなく、この職業をどう説明していいか困ったこともあった。それだけに、“スマホ1つで一獲千金”というフリーランサーの出現は隔世の感がある。そして昨年、フリーランサーの範疇にあった「ライブ配信者」が、正規の職業として突如として格上げされたわけだが、このことは多くの中国人の耳目を集めた。

 新しい産業が生まれれば新しい職種が生まれる“スピーディーな中国”において、“新手の職種”が次々と創出されるのはむしろ自然なことではあるが、話はそれで終わらない。「ライバーの出現」と最近増加している「中国の大卒者の失業」は、実は底辺でつながっているのだ。

 ■卒業生の4割が「仕事がない」状態

 6月の中国は卒業シーズンに当たる。大学や専門学校の高等教育機関を卒業する人数は、過去3年で増加傾向にあり、834万人(2019年)、874万人(2020年)に続き、2021年は909万人が卒業した。南京大学の学長である呂建氏は「909万人は過去最高だが、これに留学帰国者を加えると、就職を必要とする卒業生は1000万人を超える」とコメントした。

 しかし、近年の中国はGDP成長率が鈍化傾向にある。世界的に拡大したコロナ禍で先行きの不透明感が高まり、雇用を削減する企業も少なくない。特に新入社員の採用には消極的だ。中国では以前から「卒業すると失業する」といった皮肉が合言葉のように繰り返されてきたが、これに追い打ちをかける事態となっている。一説によれば、909万人の卒業生のうち4割が未就業だという。

 しかし、まったく仕事がないわけではない。日本の4年制大学を卒業した北京在住の謝小秋さん(仮名)は帰国後に地元企業に就職した。生存競争の激しい中国で、学歴に箔(はく)をつけようとする学生が修士や博士課程に進学するケースは近年珍しくなくなったが、謝さんは進学をしなかった。

 ■ラクして稼ぎたい「横たわり族」が増えている

 筆者は謝さんのその後を見守っていたが、案の定、彼女はわずか数カ月で「勤務時間が長い上、給料が低くて疲れきっている、もう辞めたい」と音を上げた。日本の4年制大学を卒業しても理想とする仕事には就けないようなのだ。

 かつてから中国では労使間のミスマッチが激しかったが、最近ますます噛み合わなくなっている。近年の大卒者は飯のタネを探すのではなく、“黄金の飯のタネ”を探そうとしている--こんな分析を掲載する中国メディアもあるように、背景には90后(90年代生まれ)世代に共通する「ラクして高給を得たい」という労働観がある。

 謝さん一家は生活も恵まれていて、中国国内にも東京都内にも投資物件を持っている。どのみち食べるには困らない謝さんは「両親からは無理して働かなくてもいい」と言われている。

 中国では、競争に疲れ、仕事に対しても高い意欲を持たず、現状維持でよしとする“●(=身へんに尚)平族(横たわり族)”という言葉がさかんに取り上げられるようになったが、確かに謝さんも「理想の仕事がなければ最終的には“●(=身へんに尚)平”でいい」と思っている。かつて世界が賞賛した「ハングリーな中国人材」の姿はない。

 ■エリート大学にも「就職離れ」の波が

 北京の中国伝媒大学は、「2020年度卒業生就業の質の報告」(以下、リポート)を公表した。同大学は放送、メディア分野における中国最高峰の大学で、大手新聞社や放送局などに卒業生を送り込んできた。国家事業を支える人材を大量に輩出してきたその歴史にもかかわらず、リポートが明らかにするのは、「同大学における2020年度の卒業生は2割が仕事に就いていない」という実態だ。

 リポートによると、2020年度に同大学を卒業したのは3752人で、このうち留学、修士、博士課程への進学者905人(約24%)を除くと、就業した者は2104人(約56%)、未就業の者は743人(約20%)だという。

 未就業者743人のうち、約46%が「留学や修士、博士課程への進学を“計画中”(筆者注:何らかの理由で年度内に進学できなかった可能性がある)」だとしており、「働く意欲はあるが仕事が見つからない」と回答した学生は約49%に上っている。

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